ローベルト・ムシル『三人の女』三つの中短編からな成る,
唯一の長編にして未完の『特性のない男』で世界的作家なの
だが日本では一般に非常に知名度が低く、読まれている作家と
は云い難い。オーストリア出身のドイツ語圏作家である。私も
長く全く知らなかった作家である。河出書房新社から1971年に
川村二郎翻訳で出ていうる。
『三人の女』は作品タイトルながら三つの中短編の合わさっ
たものである。この三篇の主人公は別々だ。コンセプトはどう
か、一人の女が出てくる、しかも個性的だ、三つの中短編の小
説、と実は「リルケ論」が含まれている。
『グリージャ』、『ポルトガルの女』『トンカ』の三篇である。
『グリージャ』は次の文章で始まっている。
「人生には、奇妙の歩調を緩めて、前進をためらっているの
ではないか、それとも方向を転じようとしているのではないか、
と思われるような一時期がある。このような時期に、ひとは不
幸に陥りがちなものらしい」
至って静かな文章だと思うが、これは一人の地質学者の話で
ある。男性である。かれはイタリアでの地質調査に出かける。
谷間の奥の小さな村で働く。そこでは、アメリカに長く出稼ぎ
に出ている夫ぉ待つ女のもとへ、偽の夫が帰ってきても容易に
見破れなかった、という妙な噂と、それをあり得ると思わせる
、穏やかすぎる生活があった。
そういう村で彼は農婦のグリージャといい関係になる。だが
破局は突然にやってきた。彼はグリージャとともに、その夫に
坑に閉じ込められる。しかし気づくと、グリージャは逃げ延び
ているのだ。
『ポルトガルの女』はあたかも中世の古潭のような世界が展
開する。ケッテン殿下は熾烈な苛立つ性格、生涯の日々を戦い
に明け暮れる。ポルトガルの女を妻としながら、戦いが真に決
着するまで城に落ち着くことはなかった。だがついに平和が訪
れる。だが彼の肉体も精神も疲労困憊、それから回復させるもの
は、ポルトガル人の妻への猜疑心であった。尻切れトンボみたい
に作品は終わるのだが。
もう一つは『トンカ』タイトル通り、牧歌的な雰囲気、学者志
願の青年は祖母の世話をするが、育ちも卑しい女、トンカを好き
になる。だがトンカ、は非常にデリケートな内面を持つ。青年は
トンカともども、ドイツの都市に行って自らの勉強を続ける。ト
ンカにも幾分の教養を身に着けさせた。・・・・だがある日、突
如、全てが変わる。トンカの浮気が明らかになる、おまけに病気
までもらっている、トンカは白状せず、孤独の中に死ぬ」
三作品、どれも男が、階層、趣味性、風俗が異なる女性を愛す
ることだろうか、これは作者の嗜好というべきか。
Robert Musil 1880~1942

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