ハイム・ポトク『選ばれしもの』1967、Chaim Potok [Thechosen],ユダヤ系アメリカ人の魂の遍歴

ガザ侵攻で再び世界に反ユダヤ主義が吹き荒れているようだ。
右も左も、である。現代アメリカ文学のユダヤ系作家は少なく
ないが、このハイム・ポトクほど実際にユダヤ系アメリカ人の
信仰と学問の世界に深く入り込み、ユダヤ人のどのような教育
を受け、いかなる魂の遍歴を経て成長してきたのか、を細かく
語る作品は他に見出し難いのではないか。
だからユダヤ人、ユダヤ教など、その世界に関心もなく知識
もない人が読んでも、その悠々たる清潔な内容に退屈を感じる
かもしれない、まずそうだろう。だが逆にユダヤ人の世界に興
味、関心を持つならまず外せない小説だろう。
第二次大戦の末期、NYのユダヤ人居住区でソフトボールの
試合が行われた。ユダヤ教の内部で特に信仰が篤い神秘派の
ハシディズムを信じる者たちの子弟たちのチームの中心的な
存在はダニー、非常に知的であり、肉体的にも秀でていたが、
信仰心は薄いと思われていた語り手であるルーヴィン少年の
チームに激しい敵意を燃やす。
ルーヴィンはダニーの打球で目を負傷するが、それを機会に
お互いに宗派の異なるユダヤ教はそれはそれで、ともに優れた
資質を持つ少年は宿命的とも言える友情で結ばれる。
ルーヴィンは熱狂的な信仰者で、宗派の指導者である父親
の指導の下、ユダヤ教の宗教大全であるタルムードに精通して
いく。だがやがては、父の後継者となる彼は心理学でフロイト
に親しみ、徐々に小さな宗派に埋もれるのではなく、より広い
心理学の世界、心理学者としての道を望み始めた。
ルーヴィント父親とは沈黙が支配し、父親は沈黙で辛うじて
教育がなされることになった。それは理解できないと思うダニ
ーに対し、ルーヴィンの父親はその真意を語って聞かせる。
ダニーの父親はもっと自由な立場から科学的に、タルムード
を研究する学者である。だがその父親もナチスによる600万人
もの大虐殺、ホロコーストに深い危機感を覚える。
・・・「一人の気狂い男が我々の宝を破壊してしまった。
もし、このアメリカでユダヤの伝統を再建しないと、我々は
民族として死滅してしまう」
かくして戦後、パレスチナでのユダヤ人国家建設の運動を
支援する。
ユダヤ系の大学を卒業し、父親からは独立して、互いに異な
る学問研究の道を続けようという二人の友人がタルムードの研
究でさらに結びついていく、ところで物語は終わる。
日本人、普通の日本人が読むには、ユダヤ人社会、ユダヤ教
の知識もまず乏しいから、意味を理解が容易でないと思われる。
勉強のつもりで読むということだろうか。
映画 The chosen 1981


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