ボーヴォワールの『レ・マンダラン』戦時中のレジスタンス地下抵抗運動の後日譚、

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 再説となる、フランスを占領したナチスドイツ、占領軍は
撤退した。占領中もフランスの愛国者たちはれしスタンス組
織、地下組織を作り、活動を行っていたが、ドイツ軍が撤退
となるとドイツに協力したものへの追求が始まる。この長編
の小説の主人公は右翼、資本家とも対立しつつ共産党とも一
線を画して社会革命を目指す人達である。

 ロベール・デュプロイユは中間的な社会主義革命の運動の
中心的人物である。妻のアンヌはロベールを助けながら、し
かし政治には深入りしない精神分析学者である。娘のナディ
ーヌは戦争の悲惨さの中に育ち、ドイツへの協力者に深い敵
意を抱いていると同時に、性的には奔放だった。

 ロベールの年下の友人、アンリ・ペロンは「希望」という
名の新聞を地下活動のときから始めており、やはり、ド・ゴー
ル派の右翼とは対立しながら、共産党にも同調しないで社会
主義運動を続けている。ペロンには政治には全く関心もない
ポールという女がいる。アンリはロベールの団体と結びつく
が、新聞の発刊は順調ではない。

 共産党はスターリン主義に同調し、これにはロベールもアン
リも厳しい批判的態度である。共産党は彼らの批判に対し、と
きに親近感、また敵意を示すが、ソ連における強制収容所の存
在が明らかにされ、決定的に対立する。一方、ド・ゴール派の
勢力が盛り返し、知識層を代表するロベールの組織もアンリの
新聞とともに没落していく。しかしマダカスカルでの残虐事件
を境に、共産党は彼らに接近を始める。ポールと別れたアンリ
はナディーヌと結婚する。

 その間に、さまざまな知識人たちが出没し、対独協力裁判で
の処刑を免れた人間を殺していくとか、麻薬中毒のスパイ上が
りとか、アンリの文学的成功をとりまく敵味方が入り乱れ、活
する。

 ボーヴォワールは今や伝説の作家でサルトルのパートナー
であったが、この小説も思いつきの創作ではなくサルトル、カ
ミュらがモデルとなっている。各章が三人称部分と、アンヌの
一人称による部分が交互に配されている。ロベールを愛しつつ、
アメリカ旅行中に知り合った作家と恋愛関係になるアンヌ、ナ
ディーヌのいたって奔放な性生活、戦後のフランスの知識人の
生態、行動とボーヴォワールの女性観がよく示されているとは
思える。

 つまり全て実際にあったことの小説化である。政治に首を
つっっこみながら、政治家にはなりきれないアンリ、後に自分
の作品を映画化し、その主演の若い女優を救うために偽証まで
行うが、最後までアメリカ勢力やド・ゴール派との妥協を拒む。
レジスタンス運動の後日談といえるだろう。

 戦時中は対独抵抗という一つの目標があったにしても、戦後
はバラバラに分裂する。スターリン主義批判も先駆的な作品で
ある。貫くポリシーはヒューマニズムである。ボーヴォワール
も晩年、「自分の作品では一番好き」というだけのことはある。
見事に描きあげていると思う。では実存主義=社会主義、とい
うわけはないが、サルトル、ボーヴォワールではそれが一体化
しているようだ。

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