結城昌治『長い長い眠り』1960,推理小説界の石川淳!の初期の佳作
結城昌治さん、1927~1996,享年68最、思うに実に名文を
書く作家だったと思う。実にユーモア、微妙なユーモアが筆間
に浮き出てくる。その筆致の見事さと云っていいのやら、類を
見ないかも知れない。いうならば、推理小説界の石川淳と云う
べき存在だった。結城さんが純文学を書いていたら、と思った
りもするが、推理作品でも純文学養素はある。
神宮外苑で、ワイシャツ、パンツという中年男の死体が発見
された。口髭を生やし、メガネをかけているが、身元が割れな
い。自殺、他殺も決め手がない。検視でアトロピンによる他殺
と判明した。
直後に身元が割れた、ある電気会社を経営し、まずはやり手
で通っていた野平研造である。際立った、というか特色は無類
の女好きであること、女と見れば手当り次第、というほどで、
その妻も実は5人目くらいだという。好色で愛嬌があったとい
う。
ここからが推理小説の展開だが、まず女たらしの男が殺され
たなら、犯人探しは「女を探せ」となる。第一に挙げられたの
は妻の三輪子である。彼女は離婚の不安に怯えていたという。
動機にはなり得そうだ。研造は女性眼科医の宮坂朱月とも関係
していた。なぜ女性眼科医と?だが俳句の取り持つ縁で研造と
親しくなり、その会社の嘱託医となった。また開業資金も提供
されていた。
研造の部下で社長へのこびへつらいに汲々としていた成沢春
風の行動にも不審があった。新宿のバーのマダム胡蝶、最近、
足が遠のいていた研造にやきもきしていた。心中は穏やかでは
なかった。胡蝶は事件近くの現場にいたところを研造の娘に
目撃されていた。また研造の学生時代の友人で妻を横取りされ
た薮下という獣医、・・・・・以上5人が滑稽なから騒ぎを演
じる。ここから一人、というと、ありきたりと結城さんは思っ
たのだろう、とんでもない突飛な犯人を最後に提示する。これ
は苦肉の策のようで非常にウソっぽ過ぎる気はする。いくら推理
小説でも納得させる真実性は必要に思えるが。だが名文だ。
1971年7月、雑誌「噂」の「噂賞受賞パーティー」での
結城昌治氏と佐野洋氏
この記事へのコメント