有明夏夫『サムライの末裔』1979,苦いユーモアに得も言われぬ哀感


 さて、有明夏夫さん、1981~1982頃だろうか、NHKで「なに
わの源蔵事件帳」、その原作者、『大浪花諸人往来』で直木賞
受賞、1936~2002,大阪出身、福井県に疎開、同志社大工学部
中退、サラリーマンをやりながら作家を目指す、デビュー年は
1972年、直木賞受賞は1978年、実は「小説現代新人賞」を「FL
無宿のテーマ」で受賞、また越前大野藩の幕末維新史を扱った
『幕末早春賦』、この『サムライの末裔』は直木賞受賞の翌年
、文藝春秋社から刊行された中編集『テーブル・センターが出
来るまで』に収録されている。基本的に庶民の生活をその陰影
をもって描いている。

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 表題作ではない『サムライの末裔』が力作である。主人公は
奇妙な名前で、御鷹狩図書(みたかりずしょ)、この主人公の祖
父以来の歴史を述べたものであり、この姓は桶屋職人だった祖
父が元稲葉藩士の名前を明治29年、1896年に買ったものだとい
う。

 この祖父は捨て子で捨松という名前だったために、その劣等
感、また名前のへの反発から金五円で元士族の養子となり、そ
の子には秀忠、家光と徳川将軍の名前をつけた。秀忠は若死に
し、家業の桶屋を継いだ家光は、三人の子に主水(もんど)、救
女(もとめ)、図書の名前をつけた。だが、名前からはいかにも
武士、さむらいの末裔を想像させる名前の子たちも不遇であり、
昭和20年3月の空襲で父の家光は死んで、図書は右手を失い、
学徒動員で応召した長兄の主水は戦死、次兄の救女は戦後にな
り、共産党員となって日共分裂の騒動に失踪し、さらに祖父は
福井大地震で遭難、母は交通事故で亡くなった。

 図所だけが結核療養中に懸賞作品などで稼ぐことを身につけ、
懸賞の紹介紙を発行し、なんとか生き延びるが、その彼も大部
屋女優だった女性と結婚、日常会話を時代劇のような言葉で行
お、サムライごっこを楽しんでいる。・・・・・・いたって無
力な時代と状況に翻弄される三代だが、ついに残った主人公の
サムライごっこに結実した、という何とも皮肉で苦渋な哀感と
でも称すしかない。・・・・・多少作者の経験も?福井は疎開
で縁があるが、それ以上のものはないようだ。想像の産物だろ
うがウィットが効いている。

 表題作は、これもウィットが効いている。戦争で父を失って、
母の世話で独身を通した中年女性、勤務先の郵便局で上司が横
領しているのに気づく、暴露告発の代わりに自分もその横領に
加わる、戦後の混乱期に青春はズタズタ、今は余生を生きるに
過ぎない女性が「あなた」という二人称で述べられる、なんと
も変わった犯罪小説とも言えるが、正直、脱帽の出来だと感じ
る。

 これらをちょっと読んだだけでも有明夏夫とは端倪すべから
ざる作家と思える。

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