お雛様、25年をかけてやっとオールスターが揃った,感無量

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 娘が誕生の際、三人官女までのお雛様を購入した。当時は
、「通商産業大臣章受賞」とかいう表示が販売時になされて
いて、ウソじゃないと思うが、たしかに顔はいい、いいのだ
が、三人官女まででは未達成感に苛まれてしまう、・・・・
そのまま四半世紀が過ぎた。お雛様、雛人形が本当に好きな
のは家族で私が一番かもしれないが。最近になってヤフオク
で五人囃子、右大臣・左大臣、仕丁などを揃えた。無論、安
いのだが、中に古い防虫剤の刺激臭に満ちたものがあって、
これに一番、苦労した。だがこれでそろった、並べた。正直、
感無量である。幼稚園児時代からの願いがかなった。

 久しぶりに、そこで芥川の『雛』中期の名作を読んだ、筋は
単純ながら開化ものとしては随一かなとは感じる。実にいい雰
囲気を醸し出している。

 長く家が愛憎の雛人形をアメリカ人に売りに出した、それで
家族の中で悶着が起こる、手渡す前に一度、見たいという家族、
それを叱る兄、その兄はその後、癲狂院で死んだという、・・
・・・・母は兄に「お前は私が悪いんだろう」と詰め寄る、兄
は涙ぐむ、・・・・その夜、薄暗い無尽灯が父の考えでランプ
替えられた。その華やかな明かりの下、家族で夕食を囲んだ。
その夜、「わたし」がふと目を覚ますと、並べられた雛の前に
座っている父を見た、夢幻と思うが、・・・・女々しく、その
くせ、おごそかな父、・・・・・を見たのだから夢でも悔しく
なかった、・・・・・、で結ばれている。

 無尽灯からランプに変わる時代、人力車での町見物など開化
の時代の雰囲気が漂い、没落していく家族、特に兄の姿が読後、
深く心に残りそうだ、細やかな心情が綴られて語り口もいい、
起伏もそれなりにうまく出来ていて、小説としてはいい味を出
した結構した作品である。

 ただ同時代人のエネルギッシュな作品の数々と比べると、あ
まりに「家の芸」に堕しているともいえるが、素直な流露感が
横溢した芥川としては傑作だろうか。滅びの美を見事に描いて
いる、・・・・・・。

 さて、仕丁が目立ちすぎる感はある。

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