丹羽文雄『露の蝶』1955,二人の娘の心の成長を描くつもりが風俗小説に


 この作品は新聞小説だったようだ、その創作意図は若い二人
の娘の成長、なかんずく魂の成長、というものだった気がする
が、あまりに手慣れた筆致、展開、描写でいつもの風俗小説、
風俗描写にすぐに寄りかかった、というべきか。丹羽の作品で
は最も読まれない部類だろうか。

 久子は梅屋旅館の女将、うめの娘分として育てられた。娘分
といっても、旅館では、女中として働いている。(うめを以下、
ウメと)ウメの妹のキヌが新潟に嫁ぐ時、姉のもとに預けていっ
た子供であり、ウメは密かに自分の息子の欣一の嫁にしようと
考えている。

 ウメもキヌも、もとは花柳界にいた女であり、梅屋旅館と
いうものも、連れ込み旅館だった。欣一はある二流の私立大
の出身だがその環境にふさわしく自堕落な若者であり、あると
き久子を暴力で体を奪う。で、久子とはおとなしいようだが芯
が強く、いつも化粧っ気なく働いてる。だが、欣一によるレイ
プから周囲への反発しがちである。あげくに意を決してアメリ
カ人の家庭でハウスメイドをやる。そうしたらその米人家庭の
主人に追いかけられて、街の女と間違えられて、結局、梅屋旅
館に舞い戻る。

 このような苦渋な体験は逆に久子の精神を強くした。心身と
もに成長し、見違えるような美しさを獲得した。再び欣一に挑
まれるが簡単にはねつける。だが欣一の学友で真面目でサラリ
ーマンの秦に求婚され、結婚する。

 欣一はあるダンスホールの教師をやった際に有閑マダムの
潤子と知り合って、若き燕となる。秦と久子が結婚の意思を
ウメに伝える。母は厄介払いの気持ちと、将来利用できると踏
んだが、また心の支えを失ったようになる。最後に、ウメの古
い知り合いの口から、久子はウメの遠縁ではなく、産後すぐに
亡くなったある芸妓と訳の分からぬ大学教授の子供だと明かさ
れる。久子は出世の秘密を知って新たな生活への強い意志を改
めて抱く、というのだが、

 戦後、マダム小説、風俗小説を量産した丹羽文雄、妻も、元
銀座ホステスなわけだが、いたって手馴れている手法、コンセ
プトで文学作品とみればちょっと価値はお世辞にも高くはない
気がする。単に新聞連載小説だから、ではなく、どうも風俗描
写がよほど好きなのか、そちらに傾斜しすぎている気はする。
全く読まれない作品と云っていい、それも致し方ない。『海の
蝶)というタイトルの丹羽作品もある。こちらはかなりポピュ
ラーだと思う。

 左端が武田麟太郎、右から二人目が丹羽文雄、右端が海音寺
潮五郎

  Rintarō_Takeda,_Rokurō_Asahara,_Sadao_Togawa,_Fumio_Niwa,_Chōgorō_Kaionji.jpg

この記事へのコメント