宮野彬『安楽死』1976、今なお安楽死についてのランドマーク、「安楽死はしょせん殺人の一種」


 著者の宮野彬さんは1933年、昭和8年の生まれ、中央大学
法学部卒、明治学院大学法学部教授、「安楽死協議会」の
理事を長く務められた。この本は現在は電子書籍のKindle un-
limitedでも読むことができる。

 時折、安楽死が話題になることがある。最近では京都の
ALSの女性患者を医師が個人的に金を受け取って毒物を注入、
死亡させた件、があるが、そんな社会的に話題になるような
事案はさておいて、現実は人為的に安楽死、苦痛死は日常茶
飯事で行われている。ただ表面化もせず、事件に問われるこ
ともない。典型例は精神病院、精神病院も患者の家族が邪魔
に思うから入院させていることはよく承知している。これが
近年の認知症名目の「優生思想」の浸透で家族にとって邪魔
な高齢者がいるが介護付き有料ホームは莫大な出費となるた
め、ずばり言えば精神病院に始末を期待して入院させる事例
はごく一般的である。その先はプロである。苦痛死が待って
いるのは厳然たる現実である。

 またよく引き合いに出される植物人間、この言葉は植物に
失礼だと思うが、人工的に生化しておくだけ意識も戻らない、
これを人工的な装置を取り外す、・・・・・これはよく語ら
れる安楽死の案件だが、このよは「汚い安楽死=実は苦痛死」
と常識的安楽死がある。

 以上は私の思いだが、この本はいわゆるカレン裁判が話題
を巻いていた時代の刊行だ。

 要約だが「日本人は安楽死を法律化することに警戒を抱く、
そういう殺しのお墨付きをもらうことには非常に抵抗感があ
る。国民性には合わないのは確かだろう。ではお墨付きがあ
れは思うままにどうにでも出来るとも誤解しがちである。実
際は医者と患者の家族が内密で相談し、決められることが多
い」

 「アメリカではすでに14の州で安楽死の立法化が検討され
ている。アメリカが基本的には金さえ出せばだが、ハイレベ
ルな医療を受けられる状況があり、医師の責任が法的に明確
化されていることの裏返しである。ただそれでも現実の立法
化はハードルが多いのは事実だ。患者本人の意思を重視といっ
ても、遺言も現実に全幅の信頼など置けない。病人は早く死に
たいなどいう、実は本心でないことをしばしば云うことを忘れ
てはならない」

 「日本ではなんどか立法化がなされようとした。国会議員が
中心となるケースもある。だが法制化は難しい。古い判決では
1961年、脳卒中で全員不随の父親を毒入り牛乳で殺そうとした
事件の名古屋高裁の判決があり、実質、それで十分という考え
が支配的である。下手な立法より、現実を見据えた判例が意味
があるということである。一度、法律で認めると乱用されると
いう危険性は高い。だから強いて不必要なものは作るべきでは
ないということである」

 実際、ナチスドイツT1計画で優生思想に基づいて安楽死が
乱用された苦い歴史がある。日本でも昔より医師の数は飛躍的
に増加しているから、安楽死が立法化されたらそこに、つけこ
む医師が必ず出てくるだろう。

 著者はこう述べている。

「安楽死といても要は殺人の一種でしかありません」

 以下は私の考え。

 それはそうだ、だが現実に安楽かどうかはさておき、患者の
家族の意向を汲んだ安楽、あるいは苦痛死が日常茶飯事である。
安楽死の立法がどうこうと騒ぐ人は現実を知らないだけである。
「過度の延命措置は不要」と患者家族から承諾を得て文書化し
ておけば例えば点滴栄養にもっていけばいいだけである。現実
は法律などをはるかに超えているのである。

 



 

この記事へのコメント

纐纈 晃
2024年02月24日 07:54
最近 若い人が「安楽死」を気軽に口にするのはよろしくないと思う。安楽死という名の殺人が横行するのでは?例えば遺産が欲しい子や孫・親族らが揃って心身ともに弱りつつある親を攻撃する、安楽死同意を要求するのではあるまいか