三好徹『六月は真紅の薔薇』1970,新選組・沖田総司を戦後の若者の精神に絡めて小説化

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 読売記者だった三好徹、1960年の作家デビュー、同時に
読売投書欄に安保騒動の「声なき声」を特集したのが三好さ
んである。岸信介首相の「声なき声」の代弁というのか、そ
の後、直木賞受賞、1966年に退社、作家専業となった。1931
年生、2021年死去で男性としては90歳の長寿を果たした作家
だった。

 さて、この作品は新選組の沖田総司(おきたそうじ)を主人公
としている。実際、沖田総司を主人公、主人公的に描いた小説
は数多く、私も全てはわからないが、永井龍男、南條範夫、童
門冬ニ、早乙女貢、宇能鴻一郎、笹沢左保などが挙げられそう
な気がする。確か、三好徹も1970年前後に「私説・沖田総司」
を、中編小説を書いている。それをさらに「深化」したという
のか、前作は読んでいないのだが、タイトルもなかなか思わせ
ぶりで『六月は真紅の薔薇』。

 戦時下、陸軍幼年学校にも在籍していたという三好徹、戦中
派である。だから維新の激動の時代、情熱に駆られ、血の中に
死んでいった若者たちに何か共感するものを見出したのかもし
れない。別に戦中派に限らないと思うが。どこか、共通の精神
的風土はないのか、そのターゲットなった人物が沖田総司であ
る。何度もブームになった歴史的人物だ。

 で、タイトルの『六月は真紅の薔薇』は1960年の安保闘争で
、これは記者時代、三好徹が密かにメモしていた作者不詳の、
若者たちが愛誦した詩の一節だという。

 これは事実かどうか、作中では会津侯から沖田総司に賜られ
た薔薇の鉢、これを総司が胸を病んだ娘「おあい」に愛情のし
るしとして贈ったとう、その真紅の薔薇の花がついに結ばれな
かった二人の恋の象徴というべきか、時代の激動に散った若者
の赤い血と重なる意味合いが付与されている。

 小説の内容自体は伝えられる総司の生涯を綴ったものであり、
他の作家の沖田総司ものとの差別化は難しいところがある。

 文久三年、1863年の初頭に二十歳になった沖田総司が試衛館
を飛び出し、剣士として世に出たい、試したいという願いを抱
くところから作品は始まっている。まもなく試衛館の一部とと
もに浪士隊に加わり、京都に上り、時代の激しい波に揉まれて
新選組の一員となる。剣で人を殺すことへの疑問も感じ、悩む
精神を一人称形式で述べていく。現実の思いは何も総司の文章
も残っていないからどこまでも作者の創作であるが。吉野太夫
に命を燃やせといわれた総司、ステータスを求めた近藤勇、組
織作りに励む土方歳三、内部粛清相次ぐ新選組内の惨劇、だ
が総司は「おあい」から感染った結核で短い生涯を閉じる。
殺伐たる新選組では稀有な存在かも知れないが、当時の隊員の
回顧では「すぐ怒る」と述べられてもいる。新選組内の歴史的
スターをどこまで独自に描いたか、それは無理というものだろ
うが筆致は見事と思える。


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