相馬黒光『黙移』(平凡社) 姪の佐々木信子と国木田独歩の恋愛の記述が詳しい

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 戦前の刊行、初版は昭和11年、1936年である。戦後も連綿
と刊行され続け、1961年には法政大学出版会、現在は平凡社
から出版されている。仙台の出身、夫の相馬愛蔵と中村屋創業
新宿へ、インド独立の志士、ラース・ビハーリ・ボースを庇護、
長女がボースと結婚、長女とボースの長男、正秀は沖縄戦に散
った、また盲目のロシア詩人、エロシェンコもかくまい、また
荻原守衛らの芸術家のパトロンともなった。法政大学出版会か
らは著者の七回忌を機に刊行されている。

 初版の序文は河井醉茗、「明治文学の資料ともなるであろ
う。現代女性史の参考ともなるであろう。かつまた黒光女史
の自伝とも見られる得るだろう」が、いたってこの本の内容
を簡潔ながら表していそうだ。

 仙台の出身、仙台の女学校を中退し、横浜のフェリス女学院
に学んだ。「女学雑誌」、「文学界」などが北村透谷、島崎藤
村らによって浪漫文学の端緒となっていた。

 相馬愛蔵との結婚、中村屋創業、新宿移転、病気、愛児の死
など人生の喜び、悲しみ、宗教的な精神的支え、また万事につ
いての積極性、才気煥発、ときには侠気、並の女性ではなかっ
た。ついには仏像を拝することで心の平安を得るに至る人生の
過程が明治の浪漫の香る文体というのか、で綴られている。

 明治女学校の崩壊についての記述は簡単で、結婚についても
あまり述べられていない。ただ国木田独歩と恋愛した姪の佐々
木信子その不幸な結婚については、やたら詳しく書かれ、貴重
な史料ともなっている。

 まことに傑出した歴史的な女性、というべきか。

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