『いそしぎ』映画、1965年8月、日本公開、エリザベス・テーラー、リチャード・バートンの低調なメロドラマ

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 実は私は小学6年生の夏休み、大阪の叔母らと埼玉県草加市
の「伯父」の家を訪れた。足立区か、ほぼ東京に接しているよ
うな市だが、得も言われぬひなびた侘しさを感じさせる街だっ
た。その「伯父」の家は一階が鉄工所、二階が住居、風呂は一
階の鉄工所の隣という具合、1964年の東京五輪の翌年、巷は倒
産が吹き荒れた不景気な年だったが、明るさには満ちていた?
ような気はする。で、伯父宅に上がり、テレビを見たら、ちょ
うど銀座の映画館の映画封切りのCM,それが『いそしぎ』だっ
た。ブルーのイメージが飛び込む、メロドラマめいていたのは
子供でも分かったし、直感で何かダルなイメージを受けた。そ
の後、実際にDVDでみて最初のイメージは間違っていなかった
と思った。

 MGM制作『いそしぎ』原題は The Sandpiper、エリザベス

テーラーは生涯に何度も結婚したが、その何度目かがリチャー
ド・バートン、あの『クレオパトラ』で結びついた。その結婚、
間もない時期で、ならそれをメロドラマに活かさない手はないと
思ったのだろうか。甘美な映画である。

 テレビCMで受けたあの色彩イメージはやはり映画のベースで
ある。色彩のミルトン・クラスナー(外景撮影)は圧倒的だろう。
カロフォルニアのモントレー近辺、断崖の緑と青空の太平洋の
波濤の組み合わせ、何かアメリカ映画らしくない深みのある発
色を感じさせる。

 その断崖の一軒家で、息子と二人で自由な生活を楽しむ女性
画家、それがエリザベス・テーラー、リズである。黒髪、眉が
また黒くオリエンタルな雰囲気すら漂う。

 彼女は息子に「自由のためなら悪法など踏みにじりなさい」
と大胆な教育を行う。学校経営の新任牧師、バートンが少年を
寄宿舎に引き取る。それがきっかけで男性遍歴をやり尽くした
「自由な女」と世俗に埋没する牧師が人目を避けた恋の炎に燃
えるというわけだ。

 監督は?ビンセント・ミネリ、南カリフォルニアの潮風、太
陽の光のもと、熱く燃え上がるメロドラマを撮りたいと思った
わけで、背景を次々に入れ替えて濃厚なラブシーンを繰り広げ
させる。だが二人の仲は牧師の妻に知られる。映画後半になっ
てやっと映画らしくなって、単純なメロドラマから脱する。そ
れはバートンと妻のエバとの葛藤が地味ながら描かれる。バー
トンはお得意の?切々たる殉教者のような顔で自省を演じてえ、
南に去っていく。

 でも、全体の印象がどうもすっっきりしない。「罪の牧師」
を描きたかったのかどうか、何か見終わっては低調さにうちの
めされる。ラブシーンの連続、「本番は実際の夫婦生活で」と
見る者に想像させる巧みな?仕掛け、最後に妙に深刻ぶった内
内面描写と別れで多少の映画らしさ。駄作である。

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