マーティン・ジェイ『弁証法的想像力』フランクフルト学派「社会研究所」の思想家の歩みが「大河小説」化されて


 著者はマーティン・ジェイ Martin Jay、1944年にNYの生ま
れ、この本の日本語訳がでたのは1985年、この本は「アウシュ
ヴィッツのあとに詩を書くのは野蛮だ」と言い放ったアドルフ
や、マルクーゼ、ベンヤミン、ホルクハイマーなどを輩出した
フランクフルト学派、かれらが拠っていた「社会研究所」、そ
のメンバーらの思想を紹介したものだ。といって、そのメンバ
ーは雑多で第二次大戦中に研究所自体がアメリカに亡命的に移
転したわけであり、その活動は捉えにくかった。それをマーテ
ィン・ジェイが一冊の本にまとめたということである。しかも
「大河小説」としてである。

  それは思想史を考察したものなのだが、周到に事実を調べ
上げ、フランクフルト学派の思想、その人間関係相関図、「
社会研究所」の諸活動を見据えて浮き彫りにした、すぐれもの
である。

 既成の組織団体から独立した研究組織をめざし、「社会研究所」
が設立されたのは1923年、ドイツのユダヤ系の右翼的な知識人が
なぜこのような形で結集し得たのか、それを明らかにしている。

 そのフランクフルト学派の思想家として代表的なメンバーは
ホルクハイマー、アドルノ、マルクーゼらで、「批判的理論」は
いかなる思想をも絶対化を排し、合理的理論と美的想像力と人間
行動を統合しようとする、ことは基本的コンセプトだろう。

 フロムやマルクーゼのような精神分析の社会理論化もフランク
フルト学派の功績という。この二人はやがて、「エロス」、「「
タナトス」(死の本能)を巡る解釈で内部対立をきたし、袂を分かっ
た。その辺りの事情を、ホルクハイマーを介在させることで、何
とか理解しやすくしている。

 「社会研究所」はナチズム、権威主義についての共同研究を行
った。それがあの時代にどのような体制でなされたか、いかなる
成果を挙げたのか、さらにアドルノとベンヤミンの審美論、大衆
文化批判などの記述は面白いかもしれない。

 本格的に音楽を学んだアドルノがシェーンベルクの12音音楽に
、いかなる共感を抱いたのか、さらにジャズに対し、執拗な批判
を繰り返したことが述べられている。ジャズ自体、またジャズへ
の黒人の貢献を低く見る点でアドルノはどこまでもヨーロッパ中
心主義を露呈していると著者は云う。

 ベンヤンは最後までヨーロッパを離れず、悲劇の最期をとげた。
大衆文化コピー文化時代いに本来の芸術作品のオーラが失われる
ことこそ、真の人間的経験の終焉と考えた。

 大著であり、相応の素養がないとそもそも読む気になれる、読ん
で理解できる本ではないが、気楽に一気に読むという方法もある。


 著者 Martin Jay 1944~

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