猿谷要『アメリカ多数派の理想』差別と暴力性という白人のサイレント・マジョリティを浮き彫りにする

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 やや古い本だが依然として価値を保っている。タイトルには
「理想」がついているが、これはやや不適で「多数派の精神的
背景」とで云うべきだろうか。1972年、アメリカはベトナム戦
争からほぼ撤退していた。アメリカ人が何を心底で考えている
のか、である。

 現在、まず関心は大統領選だが、アメリカの多数派はサイレ
ント・マジョリティである。勝負を決するのは声なき多数派で
ある。そこにある被害者意識である。著者はこの「サイレント・
マジョリティ」の真の姿を探る、説明するのにまずは外側から
追求する方法を取る。つまりアメリカに存在する様々なマイノ
リティを分析することで、マジョリティの真の姿を浮かび上が
らせようというのである。

 そこで著者はまず第一章で、ハワイの日系人を描く。さらに
メキシコ系、インディアン、などが白人支配の貫くアメリカの
歴史でいかに扱われてきタカを述べている。だが特に分析して
いるのは黒人である。「象徴としてハーレム社会」は読ませる
内容だ。

 著者は単にアメリカ史の研究者であるのみならず、特に黒人
問題の研究者であることに起因する。アメリカ多数派の中核を
なすWASP、白人・アングロサクソン・プロテスタントの本質を
黒人を描くことで浮かび上がらせる。WASPによって搾取され、
差別され続けてきた黒人の側から照射する手法は有効である。

 南北戦争に敗れた南部の白人はその後、一貫して劣等意識に
支配されてきた。それがさらあんる黒人への差別として跳ね返
った。さらに黒人が公民権を獲得、ブラックパワーの主張で力
を獲得してゆき、それが他のマイノリティーへの刺激となった。

 この白人の南部コンプレックスが全米に広がっていくと、
南部的なコンプレックスは全米に拡大し、人種差別の維持、強
国アメリカの幻影にしがみつき、アメリカ多数派の心理として
表面化してくる。

 著者は単に書物などの研究にとどまらず、実際に南部に居住し、
旅をしてパーティーにも参加し、学会にも数多く出席、NYの黒人
ハーレム地区にも住んで黒人問題図書館に通い詰め、フィールド
ワークも積み重ねている。日本人の書いたアメリカ人論としては
出色だろう。

 日本人は無知に拠ってアメリカをただ理想化し、分かりきった
国だという偏見さえ持ってしまう。戦後占領されたという劣等感
がアメリカを理想化し、それを信じ込む、政治家までもがそうだ、
実態を何の根拠もなく否定し、洞察を欠く結果になっている。

 白人のサイレント・マジョリティこそがアメリカである。アメ
リカの中核である。その人種差別主義と暴力主義がアメリカ社会
の根底を支えている。もうそれが修正されることはないのである。
アメリカはまだまだ混乱すると著者は断言している。それは間違
いないことである。

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