ブリジット・ブロフィー『雪の舞踏会』(原著1964)邦訳1989復刻刊行、歌劇「ドン・ジョバンニ」ベースの恋愛仮装舞踏会
イギリスの女性作家、Brigid Brophy、ブリジッド・ブロフィー
1929~1995,ロンドンの生まれ、小説家、文芸評論家、社会的
コメンテーター、ナショナル・ギャラリー館長と結婚、晩年、
1984年以後は難病で車椅子生活を送った。原作は1964年の発表
で邦訳は最初1966年、丸谷才一訳で河出書房新社から出た。19
89年に邦訳が復刊(大和書房)された。

『雪の舞踏会』 The Snow Ball、舞台はロンドン、モーツァ
ルトのあの有名過ぎる歌劇「ドン・ジョバンニ」をベースにし
た長編小説。雪の降る大晦日の夜、イギリスのとある豪邸でに
仮装舞踏会、招待された客は全て18世紀の人物に扮して参加す
るという奇妙な趣向の舞踏会、ドン・アンナに扮したアンナ・K
とドン・ジョバンニの仮面をつけた見知らぬ男との間で展開する
、基本は恋物語のような長編である。
ということだが、バロック風の絵画とロココ風の室内装飾に彩
られた邸の舞踏会場にはカザノヴァ、ヴォルテール、チャーリー
王子、詩人のバーンズ、ポンパドール夫人、ハミルトン夫人、さ
らにアン王女、マリー・アントワネットと昔日の著名名流の男女
が集った。実在の人物だけではなく、18世紀のオペラ、とくにモ
ーツァルトのオペラの登場人物も見える。「フィガロの結婚」の
ケルビーノもいる。無論「ドン・ジョバンニ」のドン・ジョバン
ニ、ドンナ・アンナも。
「ドン・ジョバンニ」をべースといてそのパロディでもないし、
ストーリーをなぞったものでもない。ヨーロッパ伝統の手法と云
うのか、「ドン・ジョバンニ」もドンファンの伝説を活かしたも
のだ。
基本的に「ドン・ジョバンニ」などモーツァルトの歌劇につい
ての基本知識、予備知識がないと読むのは難しい、非常に高度と
云うなら高度に知的な,また衒学的とも言える内容で、ちょっと通
常の日本人には読むのに難があり、私だってそうだ。
それはさておいて、ドン・ジョバンニ、ドンナ・アンナに扮す
ることで初めて恋が成就できる、という遊戯としての人生という
具合で、日本人には全く受けない人生相、を描くから初版邦訳は
さっぱり売れなかった、という。話題にもならず。だがその後、
さしもの日本人もモーツァルトのオペラなどにはるかに親しんで
きた、という状況変化が再販刊行を生んだわけだろう。
要は誘惑するのはドン・ジョバンニ、されるのはドンナ・アン
ナであり、運命というもので、二人が遭遇すれば必ずや恋のドラ
マが起きるというものらしい。それがドラマとして洗練され、さ
らに複雑なものとなるには、演じる二人の男女が、その周囲の人
々が、その二人に課せられた運命に自覚的というのがいいわけで、
そこに作者の巧妙な仕掛けがあったというようだ。二人の仮面を
つけた男女を見た参加者が、二人が遭遇するであろう、そのとき
の成り行きに心騒がせ、モーツァルトのオペラでは伏せられてい
た「この上なく魅惑的なゴシップ」もでてきているようで、その
行く末の論議にふけるということだ、
それにしても、この作品、やはりあまりにヨーロッパ上流趣味
で日本人には虫が好かない、というのも当然であり、復刊後もさ
して売れなかった、という。
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