谷川雁『無の造形』1984,帰ってきた永久革命者、工作者の亡霊だろうか

1960年安保闘争の前後の時期、いわゆる「自立思想」の旗手
的な存在で吉本隆明と並び称されていたほどの谷川雁は、思想
界から退避していたが1984年、突如よみがえった。谷川雁の異
名は「工作者」である。いうならば工作者の亡霊というべきか。
この本の刊行の前の時期、谷川雁は「十代の会」という集まり
に所属し、宮沢賢治の童話の研究、新たな解釈めざして努力して
いた。その努力の結果が『意識の海のものがたりへ』に結実して
いるようで、その次の『無(プラズマ)の造形)はあの谷川、工作者
の復活だったのかどうか。
本書の中の「わが組織空間」
「比喩を用いれば、ここにひとつの四辺形があり、それぞれの
辺をアメリカ、ソ連、中共、アジア・アフリカ民族主義国家が占
めて、人民はその閉じられた図形、一箇の密室に内封されている
とみなすことができる。・・・・・すべてのイデオロギーは世界
市場の進行する単一化にしたがって『多極化』しながら癒着した」
こうして提示される「単一世界権力の仮説」はこの当時として
は透徹した世界認識でまことに結構している。永久革命論ならぬ
永久資本主義論というべき、というのか、転向と非転向のはざま
で新たな工作者たらんとしているのかどうか。
谷川雁は
「この二十年、生きとし生けるものは、どこかの舞台装置めく
一角に幽閉され、幽閉されたままはるかな迂回を強いられた」と
いう回想は空疎な綺麗事としても、「袋は袋を破れるか」という
設問は重要だろう。
「革命の現在的不能性に断固として溶解しない者だけが革命者
であるという逆説」を生き抜くための詩人、谷川雁のあらたなる
饒舌の開始だったのだろうか。
あの著名なる処女論文集『原点が存在する』よりも、1963年
以降に書いたという未公刊論文集「論草」も読み返さないと理解
できないということだろう。出版社は創価学会系の潮出版社であ
る、ところがちょっと面白い。
だが、谷川雁のような世界はもう過ぎ去った21世紀だろうか。
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