松本清張『点と線』1958,ただ最小限のトリックの創案に熱中しただけ、サスペンス文学以前のシロモノではないか


 松本清張は純文学でスタートした『或る「小倉日記」伝」は
掛け値なしの名作だと思う。だがその後、推理小説から社会推
理小説に転じての量産、世評は高いが首を傾げたくなるような
作品も少なくない、映画化されて超高評価『砂の器』、島根県
の方言が東北弁に近い、ということをトリック的に使った、本
当にちょっとひどい。絶対的名声を勝ち得ているような『点と
線』だが、トリックだけを追い詰めている、それでは文学には
ならない。なら「トリック・アイデア集」でも出せばいいはず
だろう、推理小説、社会的サスペンスの文学と言うには何か、
最も重要なものが欠落していると感じる。
 
 香椎の街並み

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 博多の香椎海岸で1月21日の早朝、30歳くらいの男と26,7歳
くらいの女が死んでいるのが発見された。

 警察の調べでは青酸カリによる自殺で、前夜の22時ころに死
んだものらしい。男の死体のわきに青酸カリを飲むために使っ
たらしいオレンジジュースの空き瓶が転がっていた。

 男のポケットと女の財布からそれぞれ名刺が出てきた。男は
某省庁の課長補佐の佐山憲一というもので、女は東京赤坂の料
亭で働いていた時子という女中だとわかった。さらに男のポケ
ットからは、くしゃくしゃの領収書が出てきた。これが1月14日
博多行き特急「あさかぜ」の食堂車で発行されたものであった。

 つまり、この二人は1月15日に特急で博多に到着し、1月20日
の夜に心中した、ということだ。

 そこで警察は二人がどこに宿泊していたか、福岡市内の旅館
を調べた。佐山の泊まった旅館はわかったが、女の泊まった旅
館あわからない。佐山は1月20日の午後8時ころ、女の声の電話
がかかると、宿泊代も払わずカバンを預けたまま急いで出てい
ったという。

 警察はこれを凡庸な心中として処理したが、鳥飼という古参
の刑事だけが疑問を持ち、警視庁から来た三原という若い警部
補にそれを話した。三原はそのとき、東京で注目されていた
某省庁の汚職事件に関連し、福岡まで出張していたのだ。実は
某省庁の汚職事件の疑惑の中心に佐山がいたのだ。

 三原も鳥飼から話を聞き、やはり疑問を持って東京に戻って
本格的に調べ始めた。その結果は、心中に偽装の殺人事件では
ないかと、いうことだった。

タイトルの『点と線」の点は、心中の死体の男女、という二つ
の点である。もしこれを一本の線で結ぶことができたら心中は
確定である。それが結べないなら、殺人の疑惑が浮かぶ。

 この小説の犯人と目された人間のアリバイは、・・・・・・

 東京駅で横須賀行き電車の発着する13番ホームから15番ホーム
に着いている特急「あさかぜ」に佐山と時子の二人が乗るのを見
たという目撃者がいたこと、あとは犯人が心中のあった翌日の夕
方に札幌の駅に降り立ったこと、それから青函連絡船の乗客名簿
に「犯人」自筆の書名があったこと、・・・・・・からアリバイ
は成立しているとされたが、

 松本清張はこのアリバイの成立の設定に最大限の努力を払った
ということあろう。だが松本清張はこのアリバイの作成に熱中、
逆上してしまって本質であるべき、アリバイ崩しの推理の過程を
忘れてしまった。

 鳥飼刑事が疑いを持ったのは食堂車の領収書だけ、佐山が当時
のかネでは大金!の一万円、女はハ千円を持ったまま死んだこと、
時子の5日間の足取りなどが見過ごされているというしだい。
列車の当時あった級分けが無視されたり、佐山と並んで死んでいた
時子の殺されるまでの経過が描かれておらず、読んで拍子抜けとい
う印象は否めない。最低限のトリックの創作だけはいいとしても、
それ以外はさっぱり、というのか、あまりに推理小説に未経験が
露呈というべきだろうか、作品の名声だけが高いというしかない。

 他の日本の推理小説作家と比べ、ちょっと見劣りする。

この記事へのコメント

killy
2024年05月13日 13:23
私も松本清張の推理小説は短編で濃いストーリーにしてほうが良いと思います。
松本清張を読んで、似たような政治がらみの体験をしました。
それは、井原鉄道が第三セクターをつくって当初建設予定になかった「川面駅」構想を打ち出した件です。
最初は中川地区に「中川駅」を予定されて、地区民は予算1500万円を積み立てる計画でした。ところが土地も場所も最高な条件でしたが、駅を建設する気がない行政は「あの場所は悪い」ということで、私の土地に声を掛けました。
当時の内閣総理大臣は橋本竜太郎。
結局、私は最高の土地を断った背景がいかがわしく土地の提供を断りました。当時は、駅建設に矢掛町の行政までも騙されて慌ただしく動きました。
これに殺人事件をからめれば、松本清張の推理小説のネタだなと感じました。ちなみに、建設変更は井原鉄道全体で10億円。設計図だけで、人も資材も動かず大金はどこに消えた?