井上靖『オリーブ地帯』1955,手慣れた新聞記者物、手慣れた素材を自在に駆使の通俗小説

この作品、私は長く、全く知らなかった。聞いたことも見た
こともなかった、そのタイトルは『オリーブ地帯』である。
すぐに映画化もされているという。
当時、新聞記者は今からは想像もできないほどの憧れをもっ
て見られた職業である。「婦人生活」に連載された作品だから
読者層を意識して作者が書くのも当然であろう。といっても、
別に新聞記者をヒーローの極に立たしめるような作品でもない
だろう。
主人公の椎葉了介は33歳、それはキリストが十字架に架けら
れた年齢であるからして仕事と恋愛の十字路で悩むのも自然と
いうことだろうか。・・・・・それはさておき、若くして東京
と大阪に本社を持つ某大新聞の、だから毎日新聞ということで
井上靖の経験をここでも活かしている。その大阪本社編集局の
社会部副部長である。急な仕事なら大阪から福岡まで航空機で
出張し、また航空機で、この時代、まだレシプロエンジンの旅
客機だたtろう、国内便である。ひたすら仕事に没頭、その仕
事に一途は心の隙間を生んで女に関わるわけである。
椎葉了介は幼馴染の恋人はいた、若い女性向きの雑誌「意匠」
を経営する同郷の椿泰子という美人女性だ。二人は婚約の瀬戸際
までいったが、そこへ政界の黒幕とされる大館三平の側近の佐倉
伸三というイケメンが現れ、彼女を奪ってしまう。それと前後し
て、椎葉了介に別の恋人的な女性が出来た。福岡のある大学の教
授の娘で藤川京子というのだが、家出して大阪に来たときに、記
事を取りに来た椎葉に救われたという。良家の娘でのびやかな京
子に、実は椿泰子の裏切りで落ち込んでいた了介は慰められた。
・・・・・・大館三平の政治資金を巡るスキャンダルの容疑者
で佐倉伸三がマークされ、それを尾行していた椎葉はそこで初め
て自分から女性を奪ったものが誰かを知った。・・・・逆に椿泰
子は自分への椎葉の未練を知って、佐倉の失脚を防ごうと、椎葉
を訪ね、画策を依頼する、・・・・・結果は佐倉は追求を逃れな
がらも自殺、椎葉は職責を果たさなかったことで辞表提出だが却
下される。椿泰子は何処ともなく去ってしまう。
まさに経験から通じた社会事象を巧みに小説化、たしかに名手
であるのは紛れもなき事実だが、井上靖、書き慣れた事象を自在
に駆使のいつも通りなのだが、ちょっと通俗文学過ぎるのは否め
ない。井上靖、現代モノ、あの時代のパターンである。『射程』
に酷似しているのは事実だ。
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