金芝河『長い暗闇の彼方に』1971,中道進歩派の韓国の詩人の苦悶

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 金芝河さんは2022年に亡くなられた。自らを中道進歩派の
スタンスに立つとして韓国の民主運動、言論、思想の自由を
目指す、それらを抑圧するものを厳しく批判する詩を発表し
た。現実問題、韓国は北朝鮮という獰悪な国と対峙しなけれ
ばならないという深刻な立場に常にある。それを自国の民主
主義とどう調和させるか、という課題を突きつけられている
わけだが、・・・・・。朴正煕とは対立したが、以前の大統
領でその娘を支持したのは記憶に残る、「女性が大統領にな
ることは大きな価値がある」だが、その後は残念な結果には
なった。それもあって民主化運動の人たちからはちょっと距
離をおかれた面は否定できない。

 よく知られる事件で1970年、朴正煕体制を鋭く批判した「
五賊」なる詩を発表し、「反共法」で逮捕された。無論、北
に加担する人ではない。その当時の詩、戯曲、評論などを集
めた本が『長い暗闇の彼方に』で、1971年に中央公論社から
刊行されたもの、

 金芝河さんの当時の風刺は政治家、官僚、実業家など広い
範囲に向けられるが、やはりその先にあるもの、である。や
はり日本への批判的態度は鋭く、1970年11月の三島由紀夫の
乱入割腹事件には、その詩の一節で

 どうってこたあねえよ
 朝鮮野郎の生き血を吸って咲く菊の花さ

 といって大切なことは政治的、民族的な問題への風刺の鋭さ、
とう政治的側面ばかりではなく、抒情的な、透明な魂の美しさ
というべきもののほうが、実は遥かに迫ってくる。それは朝鮮
民族の資質というと他人行儀だが、このような抒情的な魂が、
あのような「五賊」のような詩を書かねばならない状況だった
ということだろう。

 やはり日本人が理解すべきは、北朝鮮は論外、だが韓国におけ
る中道進歩派というスタンス、それがちょっしゅう現職大統領の
失墜という政治的混乱が生じる根底にあることだろう。その意味
で極めて韓国的な文学者というべきである。大江健三郎さんとの
交友も知られている。

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