成瀬巳喜男監督『驟雨』1956,原節子が名女優に見えるほどの好演、佳作だが味わい深くも退屈な映画だ

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 成瀬巳喜男監督は前年の1955年、林芙美子原作の『浮雲』
を映画化し、不朽の名作という評価を得た。あの時代と境遇
を表すため主演の高峰秀子、森雅之が徹底したダイエットで
痩せ細ってロケに臨んだという努力作、水木洋子脚本だった
がそれと同じく、東宝、水木洋子(文化学院)脚本である。た
だ映画『驟雨』の原作はあの吉行淳之介の『驟雨』ではあり
得ず、岸田國士原作の『驟雨』であるが、同時に同作者の『
ブランコ』、『紙風船』、『隣の花』、『屋上庭園』、『か
んしゃく玉』などをまとめて脚色、成瀬巳喜男が演出した、
というジャンルとしては夫婦物である。夫婦物というなら、
なにか尻切れトンボのようなは『めし』林芙美子原作がある
が、『驟雨』が遥かにいい。ただ、基本は小津的な映画であ
り、その「おもしろさ」を味わうにはある種の鍛錬が必要で
ある。ただ「驟雨」という言葉は日本人には非常に情緒的な
、うっとりさせるような魔力を持つ言葉、それがタイトルと
いうのは大きな利点でもある。

 その夫婦役は原節子と佐野周二、このマッチングはいい。
上原謙よりはいい。無論、男優として佐野周二の演技力が優
れている。この映画が佳作となったのはまず原作が優れてい
たこと、複数作品を一本に脚本化した水木洋子の手柄だろう。
原作のセリフをそのまま活かす上手さということらしい。

 結婚後四年の夫婦、子供のいない夫婦。夫は化粧品会社の安
サラリーマン、妻の文子(原節子)は新聞の料理記事の切り取り
をしたり、編みものをしていいがにさしたる趣味もない、あく
び癖のあるという、退屈な生活にうんざりしているという夫婦
だ。

 新婚旅行に出かけた文子の姪(香川京子)が離婚の決意をして
文子に相談に来る。文子は男へのあきらめの哲学を説く。

 隣に若夫婦(小林桂樹、根岸明美)が引っ越してやってきた。
文子の夫は根岸の若々しい身体に惹かれ、小林桂樹は文子の
優しさに惹かれる。人の女房はよく見える、ということらしい
が、どうかな、と思える。

 会社は経営難で退職希望者を募る。夫は割増退職金をもらって
田舎に戻る気になっている。数人の同僚が、退職金を出し合って
の共同出資で文子に飲食店をやらないかと持ちかける。文子は乗
り気になるが、夫は怒る。文子は働きたいのに、夫は共稼ぎをい
やがる。いがみ合う。

 そのいやな気分の時に、姪から文子の手紙が来る。離婚は円満
に解決したらしい。仲直りしたようだ。そのため、文子の気分も
ほぐれる。夫婦が庭に出ていたら、紙ふうせんが舞い込んできた。
それを子供に返してやろうと夫が投げるが風の加減でうまく返せ
ない。妻は夫の努力に呼応し、紙風船を突く。突きあって会話し
ていたら夫婦の心が空中で結びついた。・・・・・と夫婦の日常
生活を細かく描写、やはり「もうひとりの小津」的な成瀬巳喜男
だと思わせるが、非常に細かい描写で人生の哀感、喜びをを表現
している。

 たしかに佳作だろう、映画『驟雨』の知名度は高いのも頷ける。
でも、・・・・今の人が見たら、退屈この上ないだろうことは想
像に難くない。

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