マドレーヌ・シャプサル『物語なき夏』女性作家のさりげない非前衛的な佳作

作者はMadeleine Chapsa 1925年パリの生まれ、女性。
パリ大学法学部卒、1953年から「エクスプレス」誌の文芸欄
を担当した。政治家、フェルナン・シャプサルの娘、2024年
3月12日死亡、日本的に云えば大正14年生まれである。ほんの
二ヶ月ほど前に亡くなった。98歳の長寿ではあった。
で、その長寿だったマドレーヌ・シャプサルの作品、翻訳
書はやはりフランス語の白水社から1975年に出ている。
別段、実存主義でもなく、政治的でもない。アンチ・ロマン
を目指したものでもないようだ。目新しい実験、画策はなく、
いかにもというのか、現代フランスの女性作家が書くいたって
オーソドックスな小説だろうか。女性らしいみずみずしい情感
で女性の日常生活がよく表現されていると思う。実に具体的に
表現されている。フランス語からの翻訳の日本なのだが、十分
、知的な雰囲気は漂っている。気取った実存哲学のようなもの
はないが、それなりに人間の実存性が追求されているだろう。
長編である。気取らない前衛小説とでもいうべきか。
タイトルの『物語なき夏」とは、6月、ヴァカンスの始まり、
老いたる女性作家アリスは別荘に行く。息子、娘、孫、その他
大勢の若い縁者が集まってくる。
「私は結婚して、子供を何人か作り、その子供たちも結婚し、
また子供を作る。その子供たちも大きくなって友だちができる。
その全員を私は歓迎する」という「若い祖母」を中心に賑やか
に暮らす。
アリスは今年は何も起こらないだろう、と思っていた。事件
も悲劇ももうこの年齢になるといやだった。正午に地面に落ち
ていく、花びらの音が、それが自分が気になる全てであってほ
しいと彼女は思っていた。
周囲が賑やかで活気に満ちていることもあって、かえって寂
しさを覚える老の夏、たいした高齢でもないが。その暮らしと
日常が描かれている。いかにも物事をきれいにまとめる女性の
特質が出ているようだ。端正に描かれている。
アリスははるか年少の者たちの中で暮らすことに疲れ、パリに
戻る。別れた夫である映画監督と再会する。その後、息子より若
い男との情事、やがて若者はアリスの娘とともに去ってゆく。そ
れを寂しいとも思わない、もう全てを失っている人間がこれ以上、
何を失うのか、である。もう誰もいない別荘にまた戻る。そこで
意外な悲劇だが、しょせんは些細な失敗と思うだけである。どこ
までも物語なき夏だった、・・・・・・。できればフランス語で
読みたいものだ。
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