映画『挽歌』1957,原作の『挽歌』で描かれない部分まで丁寧に補足、際立つ久我美子の好演
原田康子の原作『挽歌』はエストセラーになった。女性受け
しそうな内容ですぐに映画化の話が持ち上がった。配給は松竹
だったが制作は歌舞伎プロ、脚本は女性作家の由起しげ子、と
もちろん男性の八住利雄、監督は五所平之助、映画化に際して
は原田康子さんが主人公の女性、主役は「ぜひとも久我美子さ
んでお願いします」との強い要望、それは実現し、また久我美
子にはまことに適切な役柄となった。非常に細身の久我美子に
は少女役も似合った。
長く「松竹ホームビデオ」シリーズでVHSビデオが販売され
ていたが、その後DVD化されず事実上、販売終了のようにも見
えるが実はAmazonプライムでレンタル、あるいは購入できる。
私は最初VHSを所有していてDVDに自分でダビングしている。
「松竹ホームビデオ」の表紙!
石浜朗と
とにかくヒロイン怜子の異常なまでの感覚、今にも折れそう
なガラスの針のような傷つきやすさ、神経質さが久我美子の過
敏なキャラクターに合致し、怜子が人を傷つけ、自分も傷つい
てゆくそのプロセスの表現が原作のメインテーマとしも、実際、
映画は原作を拾い上げて描くどころか、逆に原作の、小説では
描ききれなかった箇所まで補足し、映像化して非常に稀に見る
巧みな映画といえるのではないか。
霧の濃い釧路の街、その周囲を舞台に神経痛で左手が不自由
な少女、町の青年たちの演劇グループに加わって、背景描きな
どの手伝いをおこない、日々を送っている。母がいない家庭で
ある。それやこれやで、普通の娘とはやや異なる感覚の鋭敏で
個性的な性格である。
基本は原作通りで、怜子が妻ある男性、建築技師の桂木を愛
し、他方でその妻のあき子とも親しくなっていく。で、怜子が
桂木に関心を持つようになったのは、妻のあき子に古瀬という
愛人がいたと知ったことだった。つまり古い言葉でいえば、姦
通された男に異常な関心をもったということだ。夫、その妻と
別個の付き合いから桂木家に出入りするようになった。妻の不
倫を知りながらかろうじてバランスをとって破局を免れてきた
のだが、それが破綻し、あき子の自殺ということになる、とい
うのが大まかなストーリーだが、怜子役は久我美子、桂木が森
雅之、あき子の愛人の古瀬が渡辺文雄、怜子の演劇グループの
友達の幹夫に石浜朗、・・・・・なかなか好キャストだが、や
はり原作者が望んだというくらいで、怜子役の久我美子がいい。
北海道という通常の日本の雰囲気とは異なる舞台がさらにいい
影響を与えたというべきか、ちょっというなら北欧的な味わい
さえある。怜子の人間性、内面を久我美子が見事に表現してい
る。人の魂の中に入り込んではすぐに出ていくという、いたっ
て小悪魔的さながら、久我美子生涯のベスト演技ではないだろ
うか。
高峰三枝子が、こういうと何だが珍しく悪くない演技だと思
う。久我美子ほど当たり役ではないが、桂木、怜子、古瀬との
複雑な関係を含み笑いも活かしてよく演じていると思わせる。
なんといっても冷たい風景美というべき、ロケ撮影の成果で
ある。ある意味、原作を超えた部分もある映画である。
飲みすぎて二日酔い、苦悶で桂木宅に泊まった怜子をいたわる
「あき子」高峰三枝子
怜子(久我美子)と古瀬(渡辺文雄)
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