小林美代子『髪の花』1971,「群像」新人賞、過酷を生き抜いてこの二年後自殺

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 まず小林美代子という作家、小説家である。もう忘れられた
小説家である。非常に過酷を極める生涯。Wikipediaは非常に詳
しい。その著作はほとんど出回っていないが、『髪の花』は僅
かに古書として販売されている。それも微々たるもの。1917~
1973,享年56歳。作品としては群像新人賞受賞作『髪の花』と
1972年、自伝小説『繭となった女』、遺稿が『蝕まれた虹』。

  Wikiでは大江健三郎が『髪の花』を「良質のルポルタージュ」
と評したとある。その他の評もある。

 単行本としては講談社から『髪の花』、中編小説の『髪の花』
と他に短編が四篇、短編は付録としての収録で1966年から1969
年まで、保高徳蔵主宰の「文藝首都」に掲載されたようだ。確証
もないが、間違いないだろう。拠っていた同人誌「文藝首都」が
1969年に主宰者の死去で結局、廃刊となり、そこで小林美代子が
心機一転と乾坤一擲で「群像」新人賞に応募したようだ。同人で
あった「文藝首都」が消えて奮起だったら結果はよかったのだろ
い。

 1917年、釜石市に生まれ、程なく福島県に、高等小学校一年で
中退が学歴である。「髪の花」発表時、もう54歳、だが遅咲きで
あたが、唯一の文壇への開かれた窓「文藝首都」が廃刊、だがま
だまだ書きたい文学的モチーフがあった。胸にいっぱい詰まって
いた。その結実が「髪の花」である。

 著者の精神病院、閉鎖病棟体験記である。これを北条民雄の作
品と比較して論じた選考委員もいたそうだ。閉鎖病棟の患者の、
痛切極まるその描写、絶望に胸打たれるというのだ。大江健三郎
が「良質なルポルタージュ」と評したそうだが、実際、読んで思
えるのはその文学的に練り上げた完璧さである、というべきか。
患者の素朴な体験記というものを遥かに超えている。著者の訴え
たいことを、文学的に描ききった、なんというか、精一杯の極限
のようだ。私は精神病入院体験の文学化として、『成吉思汗の秘
密』の最後の章にでてくる仁科東子さんの『針の館』を想起した。
無惨さなら『髪の花』が上だろうが、共通の文学性がある。

 1973年に三鷹市内の自宅じ睡眠薬自殺、独居だったため死後、
半月ほど異臭のクレームで発見されたという。

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