オーデン『オーデン わが読書』(Forewords &afterwords)、20世紀最高!の詩人の至高の評論集
まずオーデンとは?Wystan Hugh Auden,1907年生まれ、オ
ックスフォード大卒、詩人で20冊以上詩集、また多数の評論集
があり、紀行文もある。20世紀最高の詩人と評価されている。
さりとて、そもそもオーデンなる詩人を知ることもなかったの
で、その詩を読んだこともない。だが評論集なら読んでも多少
は理解できる。西欧文学においては詩人は批評家としても優れ
た資質をもっているのである。
W・H・オーデンによる『オーデン 我が読書』にはおおよそ
50篇の評論が収録されている。評論といって論文めいたものでも
随想でもない。序文と書評である。実は序文と書評は英米文学の
、言い過ぎでなく精華というべきものであり、オーデンのそれは
また最高水準とされているのだ。邦題が「わが読書」というくら
いで、その対象が古代文化、歴史論、政治論、音楽論、動物学、
料理論、酒にまつわる話、世界文学論、人類学、・・・・・・な
どと多彩を極めているが、中心はやはり文学論である。原題は「
forewords & afterwaords」意味深である。日本人にはわかり
やすくで「わが読書」でも内容はそのような浅いものではない。
そこで面白いものは例えば「ありそうもない人生」とは「オス
カー・ワイルド書簡集」の書評であり、それが至上のワイルド論
となっているのである。
オーデンはそこで、まず手紙を書いた人物が歴史的な超著名人
であるからとか,故人だからといって、我々にはそれらの私的な
書簡を読んだり、出版の権利はない、と云う。芸術家の私生活は
、どこまでもその作品に何ら有意義な光を照射しないという。だ
が、しかし、そういいながら、直後にワイルド書簡集の刊行は正
当だという。なぜか?
ワイルドは資質的にも運命的にも俳優であり、演技者であった。
ワイルドは自分の人生を演じ続けた。だが演劇とは本質的に暴露
だという。舞台上ではいかなる秘密も保たれることがない。とす
ればワイルドについてすべてを知ることは、まさしくワイルドが
望むことだというのだ。
何とも堂々たる華麗な道筋をたどる論理からワイルド論は始ま
る。「ワイルドの生涯はドラマであった。彼の手紙を年代順に読
んでいくと、ちょうど、観客は何が起ころうとしているのか、知
っているのに、主人公だけが知らないと云うギリシャ劇を見てい
るような興奮を覚える」というのである。
という視点からワイルドの何とも異様、異常な生涯、社交界で
の寵児からゲイ、同性愛事件での入獄、それの対する社会の侮蔑、
敗残者となっての死、という流れを追っている。聞けばオーデン
もワイルド同様のゲイ同性愛者だったそうで、それゆえ迫真性が
あるにせよ、巧妙な記述は一読以上に値する。
確かにこれがヨーロッパの知性ということなのだが、近年の奇
妙なドグマの発信地がヨーロッパであり続けるのも、また釈然と
しない。
この記事へのコメント