『幕の内弁当の美学』朝日文庫、栄久庵憲司、「幕の内理論」で日本の伝統を自在に説明、ちょっと割り切りすぎ

最近、コンビニなどで買う幕の内弁当は非常に内容が粗末
になっているうらみはある。それは論外としても、駅弁なら
、なんとか辛うじて幕の内弁当らしいかもしれない。事実、
そうである。さりながら外国人観光客が日本で幕の内弁当を
出されたら、人によりけりにせよ、感嘆する人が少ないとい
う。著者はちょっと変わった名前だが、そのことに衝撃をう
け、ただし最初の刊行は1980年末と古い(現在は朝日文庫)が、
工業デザイナーである著者は
「日本は弁当ひとつを数百年もかけて磨き抜いてきた。こ
の弁当の成り立ちを、造形精神を、美学を分析し尽くすなら
ば、日本が世界に伍して生き抜いてきた秘術の何たるカがあ
きらかにされよう」
と直感し、一気呵成に書き上げたというのだ。
四角に区切られた箱の中に、見事に行われているオカズの
配置、日本独自のこれこそ多様性の巧妙な一元化とみて、そ
こから造形デザイン論、さらに組織・産業論、伝統論がいた
って自在奔放に展開されている。
その中で、日本的な商店街、デパート、一種の膜に包まれ
たような安全な海外のパッック旅行、なども幕の内精神の現
れだという。と言って時代も変遷、商店街は衰退して消えて
いき、デパートも閉店が相次ぐ、パック旅行はあまり聞かな
くなった。時代はさらに進歩、というべきか、激動ではある。
ともかくそのような伝統的なものは日本人の遺伝子に組み
込まれ、それが深層心理となっていると断言している。
しかし何もかも幕の内理論で割り切って、一気呵成のはしゃ
ぎ過ぎみたいで、疑問も覚えるが、その自由さが著者の個性な
のだろ。読み物としては悪くない、どこまで真実かはわからな
いが。初版は、ごま書房から刊行されている。
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