ピーター・ホーソン『心臓移植』南ア、バーナード博士の世界初心臓移植を描く、成功譚に終始。功名争いの帰結
医者を全面的に信じていい?無論、医者にもよりけりで、
診療内容にもよりけりだが、「別に病院が病気を治してくれ
るわけではない」は私の人生の智慧である。どこまでも自己
責任の自己管理、これぞ健康の基本だ。特殊な外科手術はど
う評価すべきか、だが予後は甘く考えてはいけない。
現在でも依然、心臓移植は到底、安定した末永い予後はま
ず期待薄な選択が疑問視される手術である。だが近年の傾向
で医療へのメディアの本来の批判が失われ、無批判過ぎると
思えてならない。その典型は例のワクチンであるが。
さて世界初の心臓移植という、端的に言うなら暴挙を行った
南アフリカのバーナード博士である。そのルポルタージュとい
べき本がこれで1970年に邦訳がダイヤモンド社から刊行された。
心臓移植についての本は多いが国内では吉村昭さんの『神々
の沈黙』は秀逸である。で、このルポルタージュはさしたる深
味もないが、問題は南アで元来、出版されたものであり、一種
の成功譚、国威発揚的なトーンが最初から最後まで貫かれてい
ることが特色だ。したがって冷静な批判的記述、また視点もお
よそ期待できない。が、そこから、手術に飛び込んでいく雰囲
気をよく表現し伝えている。
その雰囲気とは、世界をあっと驚かせたいとの一念で、心臓
移植を目指す競争である。この本で述べられているバーナード
博士とそのチームは、スポーツにおけるチャンピオンのような
扱いであって、心臓提供者はこの競争へ心臓、命を捧げた、い
うならば献身的協力者に仕立て上げられている。
バーナードは貧しい牧師の息子で苦学して遂に世界初の心臓
移植手術を行いました、という絶賛で変な連想だが「木口小平
は死んでもラッパを放しませんでした」的なムードが漂う。
著者のオーバーな潤色はあっても、基本、バーナード博士ら
が根本は手術を行うことでの巧妙争い、医者、科学者としての
名声を博するというのが最大の動機だったことは疑いない。な
んとか、ある程度の成功の予測がもて始めた段階で、うまい獲
物が飛び込んできたので途端にパッと飛びついた、ということ
で表向き、「手術は患者の命を助けるためにやった」は空々し
いのは否めない。どこまでも実験的手術を超えるものではなく、
患者は気の毒な実験台とされただけである。
この移植手術を受けた患者はほどなく亡くなった、その手記
が外国で出されているが
「手術後の日々は瞬間たりとも地獄の苦しみであった」とい
う。名声を得たのはバーナード博士であった。
Dr.Bernard 1922~2001

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