佐藤忠男『いかに学ぶべきか 新しい独学の思想と方法』1973、工業高校定時制の学歴で文化功労者になり得た独学の方法論

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 あのまずは映画評論家として名を成し、同時に多くの優れた
膨大な著作をものにした佐藤忠男氏、1930~2022,その文章
は基本的に無駄がなく、論理が明瞭で一貫、説得力がある。
ことさら小難しいことを振る舞わすことはない、平明さと実に
的確である。わかりやすくムリのない論理を展開している。こ
れは真の意味の教養人と思ってしまうが、異例、日本では異例
えあるが、学歴は結局、新潟県の工業高校定時制である。確か
に本人が勉強家、努力家は当然として、いかにしれあれだけの
教養を、知性、鋭い批判精神を身に着けたのか、職歴は苦難に
満ちている。最初は鉄道教習所を出て大船に、だがすぐに国鉄
の人員整理で解雇、東京で職を探すが容易に見つからず、電気
工事店に僅か一ヶ月勤務、新潟県に戻る。電電公社の臨時工に
従事しながら新潟県、新潟市立工業高校定時制に通う、卒業。
映画評論からついには文化功労者に、フランスからも叙勲。

 這い上がったのはまずは工場勤務のかたわら、「映画評論」の
読者投稿蘭にしきりに投稿、からである。私は映画評論家、佐藤
忠男が印象にあるのは当然で、その映画論、映画批評は的確であ
る。実に素晴らしい。

 だが、だれしも容易にそういう道を歩めない。当初の学歴の
範囲内でいじけて生きるくらいが精々だろう。

 この本は「いかに学ぶべきか」という疑問に答えてくれる。
佐藤忠男さんの体験に即した独学のすすめである。佐藤さんは
新潟県内の高等小学校を出て海軍の少年飛行兵に、だがすぐに
終戦。鉄道教習所、国鉄に入るもすぐに人員整理でクビ、郷里
に戻って臨時工、そのかたわらの工業高校定時制、

 実は映画に興味を抱き始めたのが鉄道教習所の頃からだそう
で、その後、映画雑誌への投稿を始めた。それが認められ、編集
者に採用される、これがまず奇蹟的だが実力を認められたのであ
る。その映画評論は見事で的確だが、その後、教育、大衆文化に
分野を広げていった。まことに優れた仕事ぶりだった。

 まず近代日本では一般的とはいい難い、というか通常の既成概
念と対極の学歴、履歴でここまでのし上がった、それはひとえに
佐藤さんの偽りなき実力であった。

 佐藤さんは自身の体験から学校教育がどれほど役に立つか、ま
た役に立たないか検討し、自分が独力で学んできたことを何より
の誇りとしていると言い切る。その独学の方法論をこの本で述べ
ている。

 ただただ押しつけに終始に学校教育、学ぶことの楽しさは皆無
に近い、そこで学ぶことの本来の楽しさを失っている現代の若者
にこの本を読んでほしいと特に願う。この本で新しい世界が開か
れるのである。学校教育は実は知性も教養も与えてはくれない。
云うならば、まがい物である。それを述べるが映画評論と同様、
本当に説得力に富んでいる。

 「今の学校教育では、点数をつけやすいものばかりが肥大化し
ている。こういう現状だから学校の内容をここを直そう、という
より、ない方がいい、のではないか。学校教育の普及が本来の教
育とのバランスを欠いている。ただ若者を学校依存症にするだけ
の現状は考え直すべきだ」

 まことに正論なのだが、現実はあまりに難しい、と言わざるを
得ない。誰だって学校で教えて貰ってそれで、・・・は実はわず
かだ、根本は学校に通っていようと、実は皆、独学なのだ、とい
う真実である。


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