ナポレオンの「子供向き伝記」は可能か?

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 私が小学生の頃は、とにかく子供向け「偉人伝」の全盛期
である。国内外の数多くの「偉人」の伝記が学校図書館、ま
た教室ごとにもミニ図書館があって、そこにも偉人シリーズ
が児童文学書などともに並べられていた。だが、さすがに、
「いいことばかりかいてある」という不満の声が同級生たち
からも聞こえていたものだ。「偉人伝」は難しい。そんな理
想的人物など現実にはあり得ないのは明らかだ、だが子ども
達が学ぶべきことは間違いなくあるし必要なことではある。

 でもその「偉人」の人選は今から考えても面白い。一休さ
んもいたし良寛さん、また野口英世は障害を乗り越えた大努
力家として代表的な偉人だった。エジソン、福沢諭吉、湯川
秀樹、キュリー夫人、その他多かった。また多かったのが、
豊臣秀吉であった。

 ところで、その場合、歴史上の超有名人、貢献度でいえば
最大級のナポレオン、だが子供向けの偉人伝として書くとな
ると難しさがある。そんじょそこらの歴史的人物ではない。

 まず子どもたちに、フランス革命を理解させるなど不可能
の極みである。その理解なくしてナポレオンの0.1%も理解
できない。なぜならナポレオンとは「フランス革命の落し子」
であるからだ。

 さりとて歴史的な意義、真の人物像を抜きにして講談的な
物語で伝記を仕上げる、なら難しくはない?はずはない。
豊臣秀吉なら講談的に伝記をでっち上げることは、その講談
的豊臣秀吉像が確立されているからである。そんな歴史的人
物はごく少ない。

 ところが日本でさえ豊臣秀吉講談的伝記が確立されていた
くらいなら、ナポレオンなら遥かにヨーロッパでは伝記の歴
史が確立されている。
 
 ナポレオンとはフランス革命の落し子、これを常に意識す
る必要がある。生涯の前半はフランス革命の精神の体現者、
逆に後半生はフランス革命の精神の破壊者、自らを皇帝に祭
りあげたエゴイスト、となるが細かく見ると複雑な局面が多く、
子供向けに単純に書ける代物ではない。

 もしナポレオンをロマン主義の典型の天才と見たら即座に
悪の化身たるナポレオンが露呈してしまうだろう。子供向け
にごまかして書くのもつまらない話である。子供だって十分
、批判精神は備わっているのだ。国内の子供向けナポレオン
伝が奥歯に物が挟まるどころでない、何も語らぬ偽造的な
伝記でしかない、かなり最低な物語に終始しているのは紛れ
もない事実だろう。戦術の天才、なら具体的に語らねば意味
はない。「一点集中」は戦術である。だがそれで括れるほど
現実は単純でも甘くもない。たまたま運が良かっただけ、い
うほうが納得できるだろう。柴田錬三郎が実はナポレオン伝
を書いてる、柴錬の才筆、偕成社だが、実は読んでいない。
まだ入手可能だ、ぜひ読みたいものだ。

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