渡辺恒雄『派閥、保守党の解剖』、最も重要な章は「官僚と政党」官僚の政治支配の糾弾

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 読売新聞の最大の実力者となって現在、98歳で御存命の
渡辺恒雄氏、通称ナベツネだが、1926年、大正15年5月、東京
出身、東大文学部、西洋哲学卒、で読売入社、読売ウィークリ
‐を経て政治部記者となった。自民党をながく担当した。この本
は最近まで出版されていたようだ。初版は1958年、昭和33年で
ある。当時、ナベツネ氏は32歳の若さ、・・・・・保守合同が
なされ、3年経過。

 サブタイトルは「保守党の解剖」、タイトルは「派閥」とい
うとまた派閥、政治と金の話、というパターン、となりがちだ。
まあ、それも問題にせよ、実はこの本の最重要の章、最も力が
込められているのは「官僚と政治」の章だろう。派閥の議論は
その前置きでしかない。

 アメリカ大統領選、の報道を読んでみて、やはり羨ましく感
じる。国の最高指導者を国民が選べない(アメリカは州別の選挙
人制度という珍奇な物はあるが実質、国民の直接選挙で大統領
が選ばれる)日本の議院内閣制である。国民は議員を選んだに過
ぎないが、「議員内閣制」でその選ばれた議員たちがその中で
首相を選び、ほぼすべて議員から行政の各省庁の大臣が選ばれ
る。小学校から生徒には「日本は三権分立です」と大ウソが教
えられているが、国政で行政と立法権が融合し、馴れ合いのよ
うだが実質は官僚の政治支配である。

 だから日本の国政選挙の結果、民意が反映されるのではなく、
選挙の洗礼を経たからあとは官僚と一体化して国民を蹂躙する
のは自由でございます、というのが実態で、こんな選挙なら、
そもそもやらないほうがいい、と云うほかはない。無論、地方
知事では大統領制!で首長は住民が選べるが、そこに官僚出身
者がまた多いという現実がある。

 本書は保守党の分析は党人事の問題に移り、「官僚と政党」
という自民党が持つ最も重大な問題に触れていく。保守合同が
なされ、わずかな時間しか経過していない時点で、自民党内に
すさまじい数の官僚勢力がなだれ込んでいく、官僚勢力の増大
に驚くはずだという。要は政党という名の官僚支配、がこの時
期に完全に確立されているのである。議員内閣制という、明治
の近代国家発足時点からの議会と内閣の癒着の権力構造が戦後
も能吏活用という建前の官僚の省益実現のための道具と政党、
国会が堕している、ということでナベツネ氏は明確に事実、数
字、実名を挙げて論証している。

 本書は保守合同の自民党にも直ちに官僚派の台頭が顕著であ
り、純粋な党人派の台頭こそ期待しているというのが最大のア
ピールである。官僚はよく勉強はしているのは事実、党人派の
相対的な不勉強ぶりは事実だが、ただでさえ、行政権が立法を
支配する構造の日本、を大いに憂えている、ということだろう。

 「派閥」というタイトルながら、大野伴睦序文で、ちょっと、
にしても、著者の真意は官僚の自民党支配の糾弾である。

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