椎名麟三『人/生活/読書』1967,気取らないエッセイ、椎名麟三文学の入門書にもなる
さて、椎名麟三は第一次戦後派作家とされていた。作品を読
んで、私はどうもピンとこない作家なのだ。この本は、そのエ
ッセイなのだが、第一章「人生について」,第二章「旅にて」、
第三章「私の生活体験」、第四章「私の読書ノート」とくるが、
著者の「あとがき」もなく、執筆年月、発表年月もない。なん
だか出版社が適当な塩梅で章に分けて、エッセイ集としただけ
の本で、著者の出版意図もさっぱり伝わってこない。そもそも
本のタイトルも、仕方なく、おざなりで、というのか、窮余の
一策的としか思えない。
エッセイ、随想、以外に講演録のようなものもあり、第一章
に「愛と自由と幸福とは」これは随一のなかなかの力作だろう
が、明らかに講演であり、しかも女性相手の講演会であろう。
それに事後的に手を入れたようで、「みなさんもこんあ感情は
味わっ他経験があるはずだ」という具合の口調が全体に響き渡
るような印象、ちょっと抵抗を案じるような調子だ。それはこ
の内容に著者の幼少児からの悲惨でつらい体験が織り込まれて
いて、その作品を読んでいる者には既知のことだろうが、やは
り直接、語りかけるのはそれなりにの迫真性がある。愛とか
幸福とか孤独、自由、とか、正面切って言われたらちょっと白
けそうな観念論的な言葉を語りかけ、その観念主義を自らの文
学の根底においた、その本音もうかび出ている。
その他の章、なかなか興味深い体験が述べられている。第二
章「旅」の「九十九里浜」、ルポルタージュであるし、「ある
青年と孤児園長」という記録文学、というのか、感銘である。
第三章「生活体験」は、まさしく生活体験であり、「日射病の
にわとり」、「木賃宿」、「恥と誇り」、「ある夕方に」、そ
れらを短編小説と思えば佳作である。もし尾崎一雄か永井龍男
がこれを書いていたら大傑作のように文芸評論家は絶賛しそう
である。
全く持って庶民性には富む、ただユーモアには欠ける。セン
スというものか、木山捷平や、また大作家!山本周五郎と比べ
るのも面白いと思う。
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