円地文子『彩霧』なんとも妖艶に描く女の性、読まれない名品
円地文子は概してその小説は読まれることは多くない、と
日頃から感じている。若い人で、となると、円地文子の現代語
訳源氏物語くらいだろうか。だが読めば驚く、のが円地文子の
小説だ。
最近は「高齢者」というが以前は、それはほとんど使われず
「老人」である。どちらもいい気分などしない言葉だ。だが、
私はむしろ、「老人」の方がマシだと思う。そこで、あまり云
いたくない表現だが「老人、ことに老女の性」を描く円地文子
の、なにか底なし沼のような世界に、いささか唖然である。大
岡越前の母親の「灰になるまで」は事実のようだ。
別段、男の性、これも使いたくもない言葉だが、いたって単
純と思われるが、女性の場合、底がない。誰かが言った「女性
は性の極致において『神の嫁』となり得る」、に該当の作品だ
ろうか。それを女性作家として作品化した、これは瀬戸内寂聴
でも及びもつかないだろう。
で、あらすじ?70歳になる女性作家、堤紗乃をまず主人公と
する。季節外れの時期、軽井沢の別荘に赴いた紗乃は、そこに
済む川原夫人から「賀茂斎絵詞」をもらいうける。川原夫人は
いやというほど情事を遍歴した老女だ。
賀茂斎院は伊勢の斎王と並んで神に仕えるなんとも尊い女性
のことである。絵詞に描かれる平安時代の斎院、村上天皇の皇
女、選子内親王で、そこには秘儀の図もあった。
この絵巻物を所有するようになった紗乃は、夜ごと日ごとに
性の呼び声を体の奥に聞く。「一女相伝」として代々、伝えら
れてきた絵巻物の継承は川原夫人の魂が紗乃に乗り移ったよう
なものであった。だが絵巻物の呪縛から解放されたい、という
気持ちとのめり込む現実の自分、結果、めでたいことに若返る
、・・・・・・女版・船橋聖一ともいうべきだろうか。
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