『いなごの日』ナサナエル・ウェスト、ハリウッドに黙示録的終末を見る
『いなごの日』The Day of The Locust は映画でその名を
知られた。ウェストは戦前のユダヤ系アメリカ人作家、1904~
1940。交通事故で亡くなった。作品の数は少なく、控えめであ
る。『孤独な娘』などの小説や戯曲、映画のシナリオも書いて
いた。代表作は『いなごの日』とは思われる、映画化で著名に
はなった、だが文学作品としてはさッぱりであり、評価は低か
った、というか無視されてきた。非常に地味な作家だった。
映画「いなごの日」1975

戦前、全盛期のハリウッドを舞台としている。出だしは勤務
時間が終わりそうになった男が、窓の外を見るとハノーヴァー
家の騎兵が駆けてくる、という奇妙なものだ。それを冷静にも
の悲しい気分で描き出す、というものだ。ハリウッドは歴史も
の大スペクタクル映画の制作中だった。だから、奇妙な光景な
のである。
この男は映画美術を生業とする。いずれ「燃えあがるロスア
ンゼルス」という絵を描きたいと思っている。それは華やかそ
そもののハリウッドに世界の終末を示すような光景の絵である。
トッドというごく温和なおとなしい男である。そんな男に訪れ
れる世界の終わりの予感。
トッドは若い娘と知り合う。全量で単純な娘だが、ハリウッド
のスターになることを夢見ている「アメリカンドリーム」だ。容
姿はその体現であった。彼女は父親の葬儀の費用に捻出に体を売
るような面もあったが、トッドに体は許さない。トッドの視点か
らスター顔貌の娘の生き方が緻密に描かれていく。トッドは著者
のウェストが明らかに深く投影している。
カリフォルニアには結核などでの保養所が多く、半ば「死ぬた
めにやってくる」ような人で溢れている。そんな保養者の一人、
元ホテル従業員がスター志願の娘のパトロン的となって共同生活
を始める、にいたり、哀切な物語が、妙に露骨にむごたらしいも
のに変わっていく。暴力の匂いが入り込む、それを助長する多く
の記述、人間模様。
だが破局が近づくその現れ方は、ハリウッドの幻影に見た群衆
の不毛な欲望、好奇心、憤激や落胆、多くの無秩序な要素の襲来。
「いなごの日」とは黙示録に記された、世界の終末で民衆に襲
いかかる、おそろしい、いなごが出現する日のことだ。それをハ
リウッド的な黙示録に仕立て上げている。暴動的な群衆のラスト
シーンは暗示的だ。角川文庫が初の翻訳出版だったのか、解説に
、いなごの日、の黙示録的意味を全く述べていない。
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