高見順『いやな感じ』再論、1970年前後の全共闘闘士たちによく読まれた

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 最初は1963年、文藝春秋から刊行された『いやな感じ』、
その20年後、文春文庫になったが廃版、2019年に他の作品
も加えて再刊されている。

 これは大正末期から昭和初期にかけてのアナーキストを
素材とした小説だ。端的に言うならば、高見順の他の作品
は左翼崩れを扱っているが、この小説は戦時中のアナーキ
スト崩れを扱っている。その生き様を生々しく描いている。

 主人公は大杉栄の扼殺に報復のため、福井戒厳司令官の
暗殺事件に関わるが、アナーキズム運動の後継者として暗殺
の実行部隊からは外される。その後、行き場を失い、やくざ
まがいの生活から、大陸浪人の仲間入りをする。挙句の果て、
日本軍に捕らえられた中国人ゲリラの斬首をかってでるほど
になる。

 「大杉栄が云った、われらの反逆は生の拡充なのだと、と
いう言葉を思い出した。生の拡充、生命の燃焼を俺は欲した。
俺にとってこの恥ずべき愚行、ー愚行という言葉で済まされ
るものではないが、これは正に生の燃焼なのだ」

 中国人ゲリラの斬首という愚行の言い訳をする主人公の独
伯はを高見順は『いやな感じ』最終章の中心においた。

 この作品は1960年代末の学生運動の嵐の中、その全共闘の
メンバーによく読まれたという。高見順のアナーキスト崩れを
描いた、そのアナーキストの末路、は戦う学生たちの不安をも
予見するもんどあったのだろうか。それから15年後くらいにも
今度は全共闘崩れ、ブント派崩れの愚行に乗り移ったかのよう
だ。それを内部から鋭くえぐった、これほどの小説は他にない。
愚行を「いやな感じ」と捉える感覚がきててしまったのだろう
か。

 全ては過去の話になった。

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