ウィリアム・サファイア『大統領失明す』(文春文庫)アメリカ大統領が無能力化というテーマ。勇敢に戦う大統領の感動作。現代性も持つ
これは非常にリアリティに富んでいる、また現代性も持つ
作品だ。アメリカ大統領が死亡すれば職務を引き継ぐのは副
大統領だが、そのレベルは諸段階があるが、「無能力化」し
た場合はどうか、ということがテーマで、アメリカ憲法の盲
点ともさてていた。その「レベル」の明確な定義が難しいか
らと思われる。バイデン大統領の「年齢」がとかく問題にさ
れたりで、優生的思想ともつながりかねないテーマだが、実
は感動的な作品、小説になっていると思う。
実際にアメリカ大統領が暗殺未遂によって失明し、そこで
それを無能力として追い落とそうという策謀の数々、それに
対抗して堂々と戦う盲目の大統領の奮闘ぶり、それを実に見
事に描き出している。
晩年、言葉は悪いが植物人間化(植物は動いてないようでも
活発に活動しているから間違った言葉だろう)し、夫人が職務
を代行したというウィルソン大統領の例もある。大統領が盲目
というハンディを乗り越え、いかに職務を執行できるかを綿密
に確かめ、記述する過程はまさに感動ものである。
また大統領の情事ということが彩りを添えている。歴代の
大統領で、ホワイトハウス内でいかなる情事が行われたか、を
史実を交えて閣議の合間の「ちょんの間」も書かれてて、こ
れは笑わせてくれる。
背景として米中ソの対立を想定したもので、日本と中国が連
携して米ソの白人連合に立ち向かうという、微笑ましい筋立て
になっている。そこでChiJapsという新語まで作られている。こ
れはアメリカの通常の大衆の潜在的な意識が現れたものだろう。
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