『クラクラの日記』マリアンヌ・ベッケル(大岡昇平訳)悩んで反抗的な少女の心理を描く、坂口安吾未亡人「クラクラ日記」はこの本のパクリ
著者はマリアンヌ・ベッケル、ウィーン生れ、卒後、秘書な
ど、さまざまな職業を経てフランス人と結婚、1930年からパ
リに在住、フランスの小説、戯曲をドイツ語に訳していて、小
説は1953年頃から書き始めたという。坂口安吾未亡人の「クラ
クラ日記」はこの作品のタイトルのパクリである。
Marianne Becker
クラクラは15歳の少女だ。名前はイザベル、だからクラクラ
はあだ名ということになる。医者の娘では母と姉は美人、だが
クラクラは非常に器量が悪い。だから雀の一種のクラクラとい
うあだ名で呼ばれている。家庭でも学校でも存在を認められな
い、だからクラクラは怒りを抑えられず反抗的となる。また内
心に蠢く嫉妬や不安を日記に託し、真実を描こうと決意する。
誰にもし支配されず、自分が真実と思うものを書くというこの
日記は3月25日に始まって本当の愛を見つけた9月15日に終わっ
ている。
クラクラは利口で聞き分けがいい子、と思われている。彼女
自身は実は、それは「振り」をしているだけであり、実は皆と
同じ子供だと叫びたいが、その勇気がさない。
姉たちのお古を着せられる末娘に甘んじているが、もうそう
いう芝居にも飽きてきた。姉や友人の男友達に強い嫉妬を感じ
る。美人の母に小突き回される父親、悪い知らせではないかと
自分で電話も取らず、手紙も開封しない父親に同情する。
公園でいちゃつくアベックを見てクラクラは、自然は男の子
に娘を汚す役目を与えたのだろうかと、考え込む。意地悪な先
生がまだ独身なのも気になる。
クラクラは母親の反対を押し切って黒犬を飼って慰めとする
が、いつしかその犬もいなくなった。母が捨てたと思い込む。
靴屋のフレディに恋心を感じるが言い出せない。クラクラは
父への手紙を開封し、読んで自分の出生の秘密を知った。
クラクラはCという女の父の間に生まれた子であり、Cは14
年後の今も父を愛しているという。Cはクラクラに会うことが
できた。だがCは「気の毒な子、孤独には超えてならない限度
があります。何をさておいて、その子に優しくしてあげて」と
父に書き残し、「闇の中ですれ違った二つの船」のひとつとし
て「沖」に出てしまった。
愛されるために、あらゆる苦心と技巧で努力し、偽りに満ち
た冷たい環境から自分を解放しようとする、反抗的な少女が、
たしかに鮮やかに描かれる。
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