カトリーヌ・アルレー『わらの女』創元社、筋は非常に単純な割り切った心理サスペンス作品。女の愚かな欲を戒める
カトリーヌ・アルレー、Catherine Arley,フランスの女流作
家の作品、1964年には映画化もされている。幼年期から中国や
アジア諸国、アメリカで暮らしたという。1922~2016.

端的に云って非常に特色ある、というのか異色と云うべきか、
心理的なスリラーである。フランス語タイトル La Femme de
Paille,これは「おとりにされた女」火をつけただけで、あとか
たもなく消えてしまう女、という意味合いだろうか、その主人
公の女性の名前はヒルデガルデ、34歳である。
あまりの貧困と孤独に弱り果てていて、金持ちの男ならどん
な男でもいいから結婚したい、とあせりに陥っていたヒルデガ
ルデ、そうしたらいいタイミングで「当方、莫大な資産を保有
。良縁を求む」という新聞広告を見て飛びついた。ハンブルク
から指定されてカンヌに行って実際に会ったのはアントフ・コ
ルフと名乗る60絡みの男、一見上品な紳士である。だが結婚の
相手は、この紳士ではなく、アメリカ有数の金持ち、カール・
リッチモンドであるという。アントンはその秘書だと知らされ
た。リッチモンドは73歳のやや高齢者で病気がち、相続人もい
ないので、もし結婚すれば莫大な資産、カネが手に入るという
のだが、新聞広告はコルフが勝手に出したものを分かった。
だがこのような計画は、主人リッチモンドの遺言状を見て、
長年仕えた自分に僅か2万ドルしか入らないと知ったからで
あった。首尾よく結婚すれば、遺産から20万ドル渡してくれる
と約束してくれるだけでいい、と胸の内を打ち明けたようなコ
ルフの言葉に、ヒルデガルデは欲にかられて、この仕事に協力
することを約束した。彼女の居住のハンブルクは大空襲で住民
の記録もすべて焼失、身元保証がないのにも付け込まれ、コル
フの養子となることも承諾した。
コルフはリッチモンドが豪華なヨットでカンヌに着き、また
目を患ったという状態に乗じて、彼女を看護師に仕立て、一緒
に乗り込む。使用人たちが皆、奴隷のような卑屈な態度の中、
彼女だけはわざと主人に楯つくような態度をとった。それで逆
に主人の興味を引き、ついに航海中に結婚式を挙げる。
船という隔絶した場所を設定し、老富豪が、まあ73歳でしか
ないが、老富豪が自分と同じドイツ系とは云え、素性のよくわ
からない女に船中で求婚する、とはいかにも作り物じみている。
まあ、そこまでは、大した話でもない。その後である。
ヒルデガルデは贅沢な船中での生活や寄港地での物珍しさに、
夢見心地で過ごすうちに、明日はニューヨークに帰り着くとい
うタイミングの日の朝、リッチモンドがその船室で死んでいる
のを発見された。コルフは冷静に新しい遺言状を登録まで死ん
だことは隠しておかないといけないという。病気ということ
にして家に運び込むことを彼女の責任でやらせる。
どうにか家に遺体を運び込んだが、様子がおかしいと使用人
たちが察知しないわけはない。それにラッキーなドイツ女への
反感もある。彼女はコルフがやってくるのを待つが、なかなか
現れない。その代わり、運転手の密告で警察が踏み込んできた。
なぜ主人が死んだのに医者にも見せなかったのか、と問い詰め
た。
遺体の解剖で毒殺と判明、同じ毒薬が彼女のハンドバッグに
も付いていて、その毒薬を飲んだ推定時間には彼女と二人きり
とされ、疑惑は彼女に注がれた。
やっと彼女は警察の面会室でコルフに会えたが、遺書の登録
を待っているというコルフの言葉を信じたと警察で供述すると
、それはバカげていると一笑に付された。そもそも遺書などな
かったことは調査で明らかで、コルフに彼女がと問いただすと
「なぜ、あなたは私を信頼するのですか」と、結局、コルフの
財産横取りの囮に使われたと思い知るだけである。彼女は絶望
のあまり、裁判をまたず自殺し、コルフはまんまと財産を手に
いれた。
これだけの話で、別段、妙味もないようだが、コルフの悪
だくみを徐々に明かして、ヒルデガルデの間抜けさ、迂闊さを
徹底的に糾弾する、という女性(作者)が女性主人公をいたぶる
点がミソである。
コルフが云う
「あなたの頭は三文小説レベルですよ、悪者はいつも罰せら
れるでしょうか?それは違います。まずいつも成功するんです」
非常に割り切ってドライな作品である。筋書きは単純すぎる
ほどだが、その奥の心理的なサスペンスを追い求めているとい
うことだろう。女が女を戒める作品である。
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