有吉佐和子『非色』1964、戦争花嫁問題から覗き見た人種差別、民族差別問題

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 例えば『複合汚染』に顕著に見られたように、有吉佐和子
は山崎豊子ほどではないが、社会的な問題を告発するという
コンセプトを持った作家だった。そのまた一つの表れが『非
色』である。人種、民族差別問題を扱って「非色」とはまた
、やや皮肉なタイトルである。

 まずは糸口は「戦争花嫁」だ。終戦後、日本に進駐、その後
も駐留したアメリカ軍の兵士たちは敗戦国民の日本人から見た
ら、はなはだ威圧的で恰幅が良く、妙に威厳もあった。それが
一旦、アメリカに戻ったら・・・・・?である。

 実は冗談でなく、「戦争花嫁」はアメリカの一種の良心を表
わす。日本軍兵士がではあれだけ海外で長期間いて、花嫁を連
れ帰ったなど、まあ聞かない話であるから、アメリカ人の奇特
さと云うべきか、なのだ。

 女性主人公、ヒロインは笑子というのだが、東京で黒人米兵
相手のクラブで働くうちに、ある一人の黒人軍曹と親密になっ
て挙げ句に結婚する。何年かして一緒にアメリカに渡る。だが
行き先はニューヨークの貧民区域、そこで笑子は出産し、その
家族に組み入れられる。夫の黒人のトムは日本にいた頃とうっ
て変わった無気力で仕事もやらない。夜間の病院雑役をやって
昼間がゴロゴロしている。笑子は日本人向け食堂のウェートレ
スをやっている。だがアラバマから亭主の夫がやってきて同居
を始めるに及び、耐えられなくなってあるインテリ家庭の住み
込み家政婦となる。白人の生活というものを知って魅了されも
すうrが、どうにもある種類の劣等感に苛まれ、黒人との生活
に戻っていく、・・・・・

 という話だろうか。だがヒスパニックやプエルトリコ人の
妻になった女性たち、戦争花嫁を食い物にする日系一世も出
たりでなかなか幅広い内容である。ニューヨクの下層社会の
日本人のあり方をなかなか個性豊かに描いている。

 文学作品としてはさしたる小説でもないだろうが、現実の
あるいみ、告発となっているのは事実。

 アジア人の常として日本人は欧米、白人社会に憧れる、白人
先進国で生活というのは今なお、昔ほどではないが羨望である
かもしれない。芸能人とか、著名人が欧米白人国で生活と聞く
と垂涎の眼差し、「偉くならないと」と思うものだ。・・・・
・・・だが戦前のアメリカ、特に西海岸での熾烈な排日、日本
人移民排斥運動でも明らかだが、アジア人が白人社会で暮らす
ほど見下し視線を浴び続け、不快なものはないのである。「
著名」な日本人とて同じことだ。ガクトでも上沼恵美子でも
フランスのレストランに行って、いつまで経っても注文を取り
に来ない、「ひろゆき」など無神経だからこそである。

 『非色』は文学作品としては?でも、現実凝視というなら、
まずは立派な作品だと思う。人種差別、民族差別の国とも云え
るアメリカを舞台だからこそ、複雑な様相を描き出す。ものも
のしいアメリカにおける人種差別を論じた本より、よほど真実
を探り当てている。

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