犬養道子『お嬢さん放浪記』(文藝春秋)アメリカ、ヨーロッパの10年間の滞在記、驚異のサバイバル、生活力

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 犬養道子さんは犬養毅の三男、犬養健の長女である。まず
、犬養健をご存知でない方が多い。犬養毅の息子ながら、
元来は白樺派の作家であった。芥川龍之介の書簡でも全集に
は犬養健宛のものも結構ある。だが父親の跡を継ぐ形で政治
家に、父親ゆかりの岡山県選挙区(二区)だったが、法務大
臣時代、「造船疑獄」で逮捕状の出た佐藤栄作幹事長の逮捕
を停止させる「指揮権発動」を吉田茂首相の意向で行い、世
間の非難を一身に浴びる結果となった。まことに不運だった。
作家としては名作を残している。・・・・・・その犬養健の
長女なのである。だから名門ながら父親の不遇を目の当たり
にした。

 1921年、大正10年の生まれ、2017年に亡くなられた。津田
英学塾を卒業、戦後、道子さんは憧れのヨーロッパ留学を願
ったが戦争で疲弊していた。まずはアメリカ留学を思いつい
た。容易に奨学金も得て、さらに渡航費も運良く見知らぬ外
国人からゲットできた。

 だが実際にアメリカの大学に留学すると講義はつまらない
し、生活費もわずか、何かバイトで収入をと考えてラジオで
知った女性ライターに面会を求め、日本についての講演を行
うというバイトを見つける。英語は得意で話し上手の道子さ
んはこれで大当たりした。

 だがこれで過労に、結核を患ってサナトリウムに、その療
養室の隣の部屋の患者に見舞いに来た海軍士官と友達になっ
て海軍倉庫のパラシュートのナイロン製の紐を融通してもら
う。そのナイロン紐をほぐしてレースを編んで欲しい人に
売った。思わぬ高値で売れて、さらにカトリック信者のロ
ザリオつくりを始め、これがまた大当たりで療養所の二人
の患者を助手にして半ば工場主のようになる。

 だが突如、警官がやってきて奨学金で留学の分際で金儲け
に精を出しているとして逮捕状を突きつけられる。だが、た
だでは参らない道子さんは主治医を抱き込んで警察に逆に抗
議させる。さんざん、騒がせて退院するが国外追放者リスト
に載ってしまう。

 だがここでも粘り腰で日本に強制送還されたらお仕舞い
とオランダ領事館にねじ込んでビザを取得した。捨て身の
人間の強さを自ら感じたという。なんとかオランダ船に乗
ってヨーロッパへ向かおうとするが、ここでも警察の手が
回っていて逮捕のための警官が乗り込んでいると出港直前
に知る。だがここでも驚異の粘り腰、あと一時間、船が進
めば領域外となる。警官を雑談に誘い、まんまと領域外に
出る。念願のヨーロッパ留学である。

 とにかく名門の出だが臨機応変のヴァイタリティーはす
さまじい。決して誰の世話にもならない、驚異のサバイバ
ルである。他人はすべて彼女の目的達成の道具のようだ。

 外国生活は10年に及んだ。「庶民の中に生きる限り、私
は一度も西洋を意識したことはない」と言い切る。すごい
女性だったわけである。

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