山本健吉『小説に描かれた現代婦人像』角川文庫、山本健吉の柄にもない「身の上相談」企画の産物
最初に刊行されたのは1954年、昭和29年のようだ。のちに
角川文庫として出版された。「女性」でなく「婦人」という
のが「婦人雑誌」全盛の時代を思わせる「婦人生活」とか「
婦人倶楽部」、もちろん今でも「婦人公論」があるが、「婦
人雑誌」とはやや異質である。・・・・・でこの本は、昭和
27年以降、と云うから何だか古そうだが、朝日新聞の家庭欄
に毎日曜日、連載されたものだという。コンセプトは当時、
評判になった小説の紹介、それも女性主人公を中心に述べる
というものだった。小説の女性主人公の行為、考えなどを批
判的に検討、それを読者の視点で考えさせるというもの。
一種の人生相談、身の上相談の意味あいがあったらしい。な
かなかユニークな企画と言えないこともないが。
取り上げられた小説は基本は著名なものは横光利一『旅愁』
、川端康成『山の音』、谷崎潤一郎『細雪』、またマイナー
作品は三島由紀夫『獅子』、梅崎春生『黒い花』、椎名麟三
『愛と死の谷間』、基本は戦後作品で取り上げた作品数はか
なり多く41、小説家数は35人か、
基本は文芸評論以前の紹介、ダイジェストである。必ず女性
主人公か主要登場人物としての女性を紹介している。平林たい
子『かういう女』の「わたし」、太宰治『斜陽』の「かず子」、
井伏鱒二『本日休診』の「悠子」、大佛次郎「宗方姉妹」の節
子、満里子、大岡昇平『武蔵野夫人』の道子、など多彩である。
多彩だが大半は紹介だけに終わっている。作者の考えか、著
者・山本健吉の意見なのやら区別が曖昧である。
で、女性主人公がターゲットだから、その取り上げ方は基本、
抒情である。「女の悲しさ。とか、あきらめ、日本的な温和さ、
ねたみ、とか類型的な言葉がやたら出てくる。作品によって、
充実度が大きく異なるようだ。
「山の音」では「これは家庭環境の複座な危険さからくる
ものかもしれないが、それから逃れることがこの愛すべき女
性にとっては生きる道かもしれない。心情相談のような割り切
った解答は私には出来ない」とか、どこまでもこの企画は身上
相談であったらしい。「結婚は単になすべきものではなく、絶
えずやり直す事が必要だ」というモーロワの引用でお茶を濁す
など、ちょっと身上相談は不適な山本健吉だ。
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