ダフネ・デュ・モーリア『メアリ・アン』1954,「レベッカ」、「林檎の木」、「鳥」などの作者の描く烈しい女性

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 ダフネ・デュ・モーリエ 、Daphne du Maurierは名前自体
は日本ではさほど知られていないと思うが、その作品は非常
によく知られている。文学自体より、映画化され、著名なもの
が多い。やはりヒッチコック監督で映画化された『レベッカ』
、『鳥』は歴史的名画とされる。吉田健一訳の短編集『林檎の
木』また『見てはいけない』Don't Look Now、ノンフィクショ
ンも多い。・・・・・・その1954年発表、邦訳は新潮社から
1956年に刊行、『メアリ・アン』Mary Anne,邦訳においては
「その結婚」、「その復讐」の二巻構成である。Kindleで原書
は廉価で購入できる。

 時代は18世紀から19世紀、貧困家庭に育つが才能に満ちてい
て才気煥発、イギリス社交界、政界、陸軍などに入いりこんだ
メアリ・アンは魅力的な微笑で多くの人を捉えた。微笑に続く
彼女の笑いは「知性を感じさせるものではなく、お腹の底から
湧き上がるような卑猥で奔放な、下町的なCockneyのものだっ
た」

 まだ15歳を過ぎたばかり、ある日のこと、継父は母とメアリ・
アンと弟ら、家族を置き去りにして行方をくらませた。仕方な
く部屋を貸して生きていこうとしたが、その最初の間借り人の
ジョセフ・クラークが彼女の恋人となって結婚した。

 だが期待を裏切ってジョゼフの石材彫刻の仕事はさっぱり、
ある中になってしまった。そこでメアリ・アンは生きるために
男から男を渡り歩くこととなった。ときは19世紀のはじめ、イ
ギリスはナポレオンとの戦いに苦しんでいた。

 アンにウィリアム・ダイラーという男ができた。だがある時、
政治家や軍人の歓楽目当てで出入りするクラブに行ったことが
機縁で、トム・テーラーという王室御用達の靴商人の紹介で、
「陸軍斡旋人」との肩書を持つオジルヴィ二を知った。この人
物のまた紹介でアンは、陸軍司令官の職にあったヨーク公の癒
やしを行う地位を得た。
 
 男たちの考えは、職探しする市民たち、昇進を欲する軍人た
ちのために、アンが口を利いてヨーク公の特段の配慮を得てそ
の謝礼を手にする、ということであった。

 アンはヨーク公の慰安につとめたが手当だけでは不十分であ
った。アンも口利きを利用し、その謝礼をとることにした。ヨ
ーク公も最初は警戒心をもっていたが、徐々にアンの言う通り
になり、アンが整頓した部屋でだけ疲れを癒やすことができた。

 このようなヨーク公との癒着は批判を呼び、またアンになお
執着のダウラーも彼女の口利きで近衛隊経理部長の地位を得た。
彼女の弟のチャールズも陸軍に入ることができた。だが最初の
夫のクラークがヨーク公に脅迫状を送り始め、周囲がざわつい
てきた。

 結果としてアンは捨てられた、が、ヨーク公を打倒しようと
する者たちはアンを利用しようとした。アンはヨーク公への提
訴の証人として彼女は国中の注目を浴びる存在となった。アン
には政治などどうでもよく、ただ弟や子どもたちのために動き、
投獄もされたが弟の陸軍復職はかなえられた。
 
 主人公のメアリ・アンは実は著者の四代前の先祖であり、実在
在のメアリ・アンは1776年に生、1852年のこの世を去っている。
夫のクラークも実在で1836年に亡くなっている。

 当時のイギリス社会に全く通じていない日本人読者には戸惑う
設定、流れだが多くの群像を周囲においての見事な伝記文学とな
り得ている。

 

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