『約束」F・デュレンマット、ミステリーへのレクイエム(鎮魂歌)の副題、トリックより人間の魂か

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 これは同名の映画の脚本を書いたデュレンマットがその
結末に不満を覚え、同名小説を書いた、ということらしい。

 とある村で殺人事件があった。少女が惨殺された。しかも
暴行されていた。純朴なる村人に戦慄が走った。誰が犯人か、
あのような残虐なことを。だが全くわからない。行商人だろ
うか・この行商が遺体を発見し、警察に通報しているのであ
る。

 行商人には実は少女暴行の前科があった。取り調べは続い
た。行商人は頑として否定した。だが少女の死体検死で、チ
ョコレートが出てきた。行商人もチョコレートを売っていた
のである。取り調べは厳しく続き、ついに自白、その夜、行
商人はその夜、自殺した。

 この事件の取調べにあたったマティはその後、ヨルダン政
府の顧問司法官として赴任する予定だった。だが実際に事件
現場に行ってその遺体を見たとき、なぜか心が動揺した。そ
の母親の悲痛な叫び、「犯人を必ず捕まえてください、約束
してください」

 そう言われ、「約束は守ります」と応えた。彼はヨルダン
赴任をやめ、ガソリンスタンド開業、殺された少女のよく似
た少女を配置し、犯人が再び現れるのを待った。網を張った。
なぜか、マティには行商人が犯人とは到底、思えなかったの
である。なら犯人は今もどこかにいる、犯罪は繰り返される
ことが多い。

 そのうち、囮の少女はある日、森の中に見知らぬ男に誘わ
れた。・・・・・・ここまではありふれたストーリーだろう。
あまり一般的でない、スイスの田舎の光景がよく描かれてい
るようだ。「アルプスの少女ハイジ」さえ思う浮かべる。

 作者、デュレンマットはこの作品にレクイエム、鎮魂歌
という副題を与えた。それは結末のどんでん返し的な意外
さではなく、逆にあっけない幕切れなのだ。それに皮肉な
微笑を与えるマティ。

 およそ名探偵が推理、捜査能力を発揮、意外な犯人を、
というそういう要素がない。全て日常的だ。ただひとつの
特徴は、我が子を失った母親の瞳の悲しみの情でだろう。
この瞳に触発されて捜査に燃えるは、チャンドラーの「長い
長いお別れ」の真似のように思えてならない。

 つまり要は平凡ある結末の推理小説は、推理小説へのレク
イエム、鎮魂歌といういたって皮肉である。結末はかまわな
い、ただ人の心だ、動機だ、、人間という不可思議なもの、
にこそ焦点を当てたこの小説はミステリーの可能性を拓いた
?と言えるだろうか。

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