木下順二『風浪』岩波文庫、神風連の乱を舞台の全6幕、平板に終始して盛り上がりに欠ける

・・・劇作家、木下順二の1953年頃の発表だろうか、岩波
文庫で出ていた。もちろん最初から岩波文庫ではない。熊本
で明治維新間もない時期い起きた士族の反乱、神風連の乱、
敬神党の乱を題材とした戯曲である。
熊本では勤皇党、実学党が対立していたが、勤皇党から生ま
れたのが敬神党である。明治8年、1975年において熊本には保
守的な考え、士族の特権の喪失への抵抗勢力として禄は失った
がなお帯刀し、髷を結っている旧士族が多かった。他方で文明
開化は進展し、思想の対立が顕在化していた。士族の商法も始
まり、新たに農業を始めた旧士族もいた。
21歳の佐山健次は敬神党に属していたのだが、神道一点張り
の考えにも疑問を持っていて実学党の首領の木崎蚕堂にところ
にいって疑問を晴らそうとしていた。藩政は実学党に手中にあ
り、洋学校が開かれていた。そこで農民出身の鎮台兵が旧士族
に代替しつつあった。洋学校には砲兵出身のアメリカ人のジェ
インズがいて学問を講じている一方、キリスト教の布教をを行
っている。
やがて廃刀令が出るという噂が広がり、保守派の間に烈しい
反発と動揺が広がった。それやこれやで明治新政府への不満が
一気に高まり、勤皇党、その中の敬神党と実学党との対立は激
化する。同じ家族の中でも対立は生じた。実学党は文明開化に
は賛同しても、キリスト教を認めるにはいたらない。新宗教に
惹かれる若者も多い、佐山もその一人である。遂には神風連、
敬神党の乱を起こす。だが鎮台兵に制圧される。その後、残党
らは鹿児島の西郷に集合し、西南の役が起きる。佐山も参加し
ようと考えたが迷いもあった。
と基本は神風連の乱を扱う第五幕が全六幕の中で中心となる
のだが、しかしどうにも劇的とはいい難い。全体がセリフ芝居
だが、コトバが熊本弁だ。それにアメリカのカタコト日本語や
英語も入る。読みやすくない。
基本的にヤマがなく平板だ。そのせいか木下順二もこの演劇
公演はすべて断ったそうだ。作者自身もそれを分かっていたよ
うだ。素材は本来劇的なはずだが、できた脚本はなんとも盛り
上りに欠ける、ということだが、読み物としてなら面白いだろ
う。
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