『戦後風雲録』森正蔵、1951、驚異のロングセラー、1994にも復刊された歴史的名著だが概括的記述すぎる
1951年に刊行され、1994年にも復刊された、云うならば「
歴史的名著」である。著者の森正蔵とは1900年、明治33年、滋
賀県生まれ、東京外語ロシア語卒、大阪毎日に入社、モスクワ
特派員、編集総務、論説委員など歴任。1953年死去、である。
終戦直後、著者は『旋風二十年』を書き、ベストセラーとな
った。その姉妹編、という位置づけである。『旋風二十年』は
満州事変前から大戦終結にいたる日本の混乱の悲劇的足跡の記
述だったが、『戦後風雲録』は米軍などの進駐から講和条約に
いたる国内の主要な事件、世相の記述である。作家でもなく歴
史家でもなく新聞記者の視点で述べられている。実際に自分の
目と足で書いたというのは新聞記者のコンセプトである。

戦後は大混乱のドサクサの中、数多くの事件が発生したが、そ
れらが一目でわかるが、個々の事件の探求という点ではなんとも
不十分のそしりは免れないが、しかし、すんなり読めるメリット
もある。手っ取り早く概括的に、というならベストかも知れない。
ある事件は、出来事はしょせんは起こるべくして起こったわけ
であり、この本は終戦後の日本の歴史の断片を集めたものだ。ま
ずは極東国際軍事裁判(東京裁判だが)豪州のキーナン首席検察
官がアメリカの「天皇は責任追及から除外する」という方針で、
天皇への尋問がほぼ不可能となり、証言収集に苦労した話とか、
マッカサー元帥と昭和天皇の会見写真の掲載が最初発禁となり、
その後、解禁となったいきさつ、鳩山の追放から吉田茂が総裁と
なって登場の内幕、皇族、旧華族からの斜陽族化、その後の行方
、朝鮮動乱での「日本人部隊」の噂、事件の舞台裏を面白く述べ
ている。ただその多くの事件事象を興味本位で読み流すのではな
く、著者は「これらを振り返ってみることで、今後の道を踏み間
違えないように望む」と序文で述べている。
記述は説明より事実そのままというコンセプトであり、解説は
乏しく批判的見解もないに等しい。読者にまずは考える素材を与
えるということだろうか。そのコンセプトはそれでいいが、どれ
も同じ程の長さ、扱い方が一様であり、ちょっと適切とは言い難
い印象を受ける。「対日講和の進展」というビッグテーマについ
て、もっとページを割くべきだったろう。朝鮮戦争についての記
述も今から見ればだが非常に洞察を欠いている。仕方がないのか、
どうか。
今に至る「戦争放棄と自衛権」も実は手際よくまとめているが、
画一的な記述であリ、学ぶべきものは乏しい。全てについて概括
的でツッコミが足りない本ではある。ロングセラーになった理由
がよくわからない。
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