羽仁五郎『都市の論理』vs 三島由紀夫『春の雪』(「豊饒の海」第一巻)、1969年初頭のべストセラー1,2位

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 ともかくも昭和43年から昭和44年、1968~1969年は大学紛
争の絶頂、しかも反代々木系全共闘運動が吹き荒れた。現在
の大学からは想像できない活況である。そこ頃、ますます右翼
的傾向を強め、革命の勃発を本気で危惧していたのが三島由紀夫
夫、自衛隊に体験入隊したり、短身ヲ顧みず武道に励んだ。そこ
で1969年初頭、1,2月はベストセラー1位が羽仁五郎『都市の論
理』、2位が三島由紀夫『春の雪』だったという。羽仁五郎と云
う容が硬いと思われてしまうが、この『都市の論理』627頁とい
うから大部である。1月21日、東大安田講堂が落城すると西の京
大で乱闘が始まった、羽仁五郎氏はそこに駆けつけ「君たちの封
鎖戦術だけが大学の改革をなし得る」と反代々木系学生を全面的
に支援する演説をぶった。

  1969年1月21日、京大教養部前で全共闘学生に支援の演説
 の羽仁五郎氏

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 とにかく全ジャンルの書籍で売上トップは『都市の論理』だっ
たという、読後感は例えば

 「羽仁さんにはあまり好感は持ってませんでしたが、今度、こ
の本を読んで完全にお手上げです。こんな痛快な読後感は生まれ
て初めてです」という二十歳の男性のもの。

 書評は週刊朝日

 「本書は戦前、すでにルネサンス自由都市に大きな業績を挙げ
ていた在野史学の長老(当時まだ67歳)がその鋭い論理をそのま
ま現代日本の問題に適用し、縦横に都市問題を論じた大冊である」

 「月に一回の1年半にわたって続けられた講義の記録であり、歴
史的条件と現代の闘争の二部から構成され、第二部は現在の報道を
素材に現代都市生活の荒廃、自治体への国家官僚の抑圧、さらにそ
の背景にある、大企業の横暴を暴いて余すところがない」

 羽仁五郎氏はインタビューで

 「それほど売れると思ってもいなくて驚きましたよ。ぼくの本が
売れたのは大学生なりに、ものを考える人達に、満足を与えるよう
な類書がなかったからでしょう」

 で2位は『春の雪』、「豊饒の海シリーズ」第一巻

 内容は明治の元勲の侯爵家の孫息子・松枝清顕と一つ上の幼馴染
の子爵家の綾倉聡子の恋愛、ま、三島由紀夫はとにかく貴族趣味を
徹底、自分は貴族ので?っ祖父は神吉村の貧農の出、祖母が旗本の
娘、それで、・・・・貴族、華族の血統はまったくないが。

 この頃、「ノーベル文学賞」を受賞した川端は『春の雪』をべた
褒めした

 「私は奇蹟に打たれたように感動した。このような古今を貫く名作
、比類を絶する傑作を成した三島くんと時代を同じくした幸福に感謝
したい・・・」

 このときうインタビューで三島

 「私・右翼ですよ。右翼はright,正しいという意味もあるじゃないで
すか。右翼と言われても全然平気ですよ。でもぼくの本が売れるのは
イデオロギーは関係ない。普通の文学としてですよ。ぼくも長く長編
を書いていないから。それからボディービルや自衛隊入隊、それを笑う
人はいますが、それは作品で応えます」

 川端康成が絶賛ですね

 「実は全く心外でね、あんな文章を川端さんが書くなんて見たことが
ない。ノーベル賞で気分が高揚しての絶賛という人もいますよ。実はあ
の褒めの文章は受賞前なんです」

 ー革命の可能性を考えますか?

 「日本の官僚の30%くらいは社会党内閣がいずれ出来る、と思ってま
すよ。官僚の予感でしょうな。否定はできません。もし社会党内閣はで
きそうになったら、断固撃滅しかない。お互い、ダマせるのはいまの内
です。もう、そうなったらクーデターしかない。民主的手段なんか信じ
ない」

 え?クーデターの先頭に?

 「クーデターは大げさでしょう。ぼくは一人でもやる。もうこれくら
いでいいでしょう。あまり話すと本音が出ますから。羽仁五郎だった云
いたいことを云っているんだからお互い様ですよ」

 ここにすでに翌年の市ヶ谷自衛隊に乱入、アジ演説、割腹の考えが浮い
ている。

 羽仁五郎の三島評

 「三島君は権力の側の文学をやっているね。人生の美は美人と月夜
と死と決めて、月夜に死ぬ話ばかり書いている。これが文学でしょう
か。全くバカバカしい限り、無内容の極みですよ。理性を失ったから
無内容の美にならざるを得んのでしょうな。でボディービルとかね。結
局はファシズムになるだけですよ」

 ごもっともではある。神戸大学法学部の英米法の早川武夫先生は、
東大法学部で三島こと平岡公威と学籍番号が一番違いだった。その
前に早川先生は文学部も出られていた。早川先生、三島文学について

 「舞踏会とか貴族とか、自分が貴族でもないのに、私は文学はわか
る。あんなもの文学じゃない。まあ石坂洋次郎レベルだろう」

 「永すぎた春」のモデルに早川先生はされていたそうだ。若禿の本は
ツンドクのもう妻子がいる学生、・・・・・だそうだ。

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