サマセット・モーム『月と六ペンス』モーム唯一?の「傑作」かもしれない

 
 著名な作品だ、 The Moon and Sixpence,six とpenceは
合体している。ただなんとなく奇妙なタイトルと思ってしま
うが実際、どちらも円形で銀色に光る?月が銀色とも言いに
くいが。これは「月とスッポン」の意味合いで、共に共通性
がある、「月とスッポン」より念のいったフレーズというこ
となのだ。テーマを暗示しているようなタイトルで内容自体
を説明しない。ただこれはあの『人間の絆』をこき下ろした
書評の文章から取り出したとか、という説がある。

 モームはイギリスでどう評価されていたかというと「通俗
小説」作家だったという。要は高尚な文学性などない作家と
思われた、というがそれは当然だろうか。『月と六ペンス』
はイギリスではさっぱり売れず、アメリカで売れてそれで本
国でも売れ始めたという。モームはイギリス本国でもさほど
売れて評価の高い作家でもなかったのだが、この『月と六ペ
ンス』でそれまでの作品が見直されたというのだ。それから
遂に晩年はイギリスの大作家という評価に上りつめた。全て
はこの作品のおかげらしい。でもモームの短編など、ロシア
作家と比べると私はどうにも格の違いを感じてならない。つ
まらない落ち話、高等落語ならぬ中等落語ていどにしか思え
ないのだ。だが『月と六ペンス』だけは別格だろうか。

 よく画家のゴーギャンをモデルとした芸術家小説とされる。
というとなんだかモデル小説みたいだが違う、伝記小説でも
ない。

 実は三部というか三章に分かれている。

 第一部はロンドンの社交界が舞台で、第二部はパリでの出来
事を描く、第三部がタヒチである。プロローグとエピローグが
前後に付いている。プロローグと第一部は「ロンドン社交界」
編、モームのアイロニーと心も冷えるユーモアだ。

 第二部が中心のようで長い。モームは真の芸術家!ストリク
ランドをパリで生活する者たちの中に置く。この異端者をパリ
の人達はどういう反応をしめすか?

 第二部の登場人物はオランダ人の三流画家。ディルク・ストル
ーフェ、その妻のブランシュ。その平穏な生活に現れたストリク
ランドの翻弄させられる。他人の目には滑稽を極めるディルクの
振る舞いを通じて「月」と「六ペンス」のイメージがコロコロ変
わる。好人物のディルク、へぼ画家のディルク、だが真の芸術家
かどうかを見抜く目を持っている。だがその結果は、思いもよら
ぬ悲劇であった。そのとき、作品から噴出するものがあるのだ。

 第三部は一気に南洋のタヒチである。読者の南洋趣味、好奇心
を見込んでいる。真の芸術家はもはや社会の異端者ではない。こ
の作品での第三章の存在は必然である。エピローグは再びイギリ
スだ。モームは最初の冷めたユーモア、皮肉さに戻って足元から
円形の銀色に光るものを拾い上げる。それは六ペンスであった。
肩をすくめ、ポケットに収める。・・・・と書いているわけでは
ない。イメージが浮かびそうということだろうか。

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