平林たい子『うつむく女』1956,中年女性の情欲に異常なまでの関心の平林たい子。ちょっとあきれる


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 昭和31年、1956年発表の作品である。妻同士が従姉妹であ
る二組の中年夫婦を取り上げて、それぞれの「愛欲生活」の
葛藤をテーマとしている。

 小夜子の夫の木下は、今では零落してもっぱら「目の青い
兵隊さん」向けの色情的な絵を描いて生活している。長女の
不摂生で荒廃した彼の肉体はもはや妻に全く満足を与えるこ
とができない。挙げ句にこの夫婦生活は奇妙な倒錯に陥って
いる。

 たまたま一夜、弟子たちを集めた酒宴の果てに、裸にした
彼女をとともに獣のような狂態、痴態を演じて見せる。欲求満
で「過剰なものを自分の中に溜めていた」小夜子は、この夜を
きっかけに、せきを切ったように次々と夫の若い弟子たちを相
手に情欲を求める。夫の木下は妻のそのような不貞を知りなが
ら、逆に変態的な喜びにひたる。

 他方、小夜子の従姉妹の珠子は平凡なサラリーマン、順一の
妻である。だが順一は両親をなくした二人の姪の世話に明け暮
れるうちに、知らず知らずのうちに姪の姉の方の稲子への気持
ちが島崎藤村ではないが、愛情に変わってしまい、家庭に何か
と波を立てている。だが稲子はこの中年の叔父よりアパート隣
の若者、安土との恋愛に溺れそうになっている。妻の珠子も、
二階に下宿の夫の後輩、石上という青年といい仲である。

 で、・・・・・順一一家の家庭内のもつれは、順一がついに
珠子と別居、監督の名のもとに稲子らとの同居を決心、あまつ
さえ、石上に妻・珠子との結婚をすすめるなど、奇怪な申し出
があって、あわや破局の一歩手前まで行くが、一足早く稲子は
安土と同棲してしまう。だが結局、夫婦はよりを戻す。

 他方で小夜子は亭主の三人の弟子との情欲に惹かれながらも、
最後は倒錯的な関係はそのままに「夫婦和合」の記述で小説は
終わる。中年夫婦の愛欲がテーマで、どちらも竜頭蛇尾で終わ
る、・・・・・

 のだが、これは思わずニンマリのエロ小説である。平林たい子
は社会派にして第二次大戦中、ヤクザの世話になっため、その方
面の作品もある。それと愛欲小説、・・・・・つい、「あの顔で
よくぬけぬけと」と思ってしまうが本物である。

 中年女性の情欲にあり方に異常な関心を寄せているのだ。瀬戸内
晴美、寂聴とも共通性があるのだ。

 「立っているときには取り繕うわれている女の理性は、体が倒れ
るその拍子にがらりと変わり、まったく別の生き物に変わってしま
う。その瞬間、小夜子は控えめな妻ではない。受身を習性とした女
でもない

 ほんとにあの顔でよく言うよ、と思わずにはいられない。

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