江戸川乱歩『推理小説作法』光文社、初版1959.古いが今なお刊行。ふるさを感じさせない秀逸さ

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 初版は光文社から1959年、昭和34年に刊行され、現在も同じ
く光文社から文庫で継続されている。いまなお評価が高いよう
だ。その時点の専門的推理作家だけではなく、新たに松本清張
、有馬頼義という狭い意味での推理小説作家ではない、より広
い意味での社会推理小説の作家たちも執筆している。内容は多
様なアプローチで推理小説を考えるというコンセプトで、推理
小説ファンに対しての案内、手引書、基本知識を与えてくれる
というありがたい本だろう。

 内容は中島河太郎「推理小説の歴史」、江戸川乱歩「トリッ
クの話」、大内茂男「動機の心理」、加田伶太郎「素人探偵誕
生記」、荒正人「推理小説のエチケット」、平島「現場鑑識」、
植草甚一「推理小説とスリラー映画」、松本清張「推理小説の
発想」の八篇である。・・・・・だが実は長さで云うと全体の
30%近くを松本清張の文章が占めているから、やはり松本清張
が中心の本だろう。

 あの当時、旧来と云うとなんだが、旧来の推理小説作家を蹴散
らすような松本清張らの社会推理小説が圧倒的な人気を獲得し始
めていた。端的云うなら従来型の推理小説が謎解き、トリックを
正統的なアイデンティティーとしていたのに、松本清張はその犯
罪の背景をもとに動機を探求するというじょとで時代、人間性を
描く、探るのに基本的コンセプトがある、実は大きな違いだろう。

 松本はそれまでのトリック、意外性重視の日本の推理小説のあ
り方が肝心の人間や生活、さらに時代背景も何ら深みない描き方
しか出来ず、文学としての価値に疑念を投げかけている。そこで
、要は人間の行う犯罪だから人間自体を追求し、描かねばならぬ
、推理小説も人間を描くことに尽きる、、それは動機の追求が重
要な要素となる、という確信を持ったことが『点と線』などの多
くの作品の創作に通じているとし、その創作ノートまで公開して
いる、という力の入れぶりだ。

 と犯罪も人間のなす行為以外の何物でもない、それによる動機
尊重論も真実だろう、・・・・・が果たして「動機」だけでまた
犯罪の本質が全て語られるだろうか、という気もする、「動機な
き犯罪」も現実には少なくない。だが松本清張はあまりに真剣に
この一篇を書いていて分量も他を圧している。

 さて中島河太郎「推理小説の歴史」非常に有意義だ。ただペー
ジ数は清張に圧迫されて多くはないから要領よくまとめた、との
イメージである。

 江戸川乱歩「トリックの話」実に平常心で力まない文章、トリッ
ク推理小説の旗頭だけにリーズナブルな内容だと思える。荒正人「
推理小説もエチケット」これま、絶賛ほどではないが、さすがに超
博識で見識の高い方だけにハイレベル読者を念頭に置いている。「
探偵は独自の個性を持つべき」、「事件は完全に解決されねばなら
ない」、「サスペンスは絶対に必要」そのとおりと思う。

 でも「現場鑑識」、「推理小説とスリラー映画」、前者は法医学
をベースに、興味深くはあるがあまりにギスギスして余裕がない。

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