ロバート・キャパ『ちょっとピンボぼけ』文春文庫、心温まる壮絶な写真家

)ダウンロード (555.jpg
 ノルマンディー上陸の海に浸かる兵士とかスペイン内乱で
の狙撃され、倒れる反フランコ派兵士の決定的写真などで、
無論、そればかりではないが、著名なる写真家、ロバート・キ
ャパ、の著書の翻訳である。翻訳の最初の刊行は昭和32年、
1957年である。現在は文春文庫で連綿と続いている。で、ロバ
ート・キャパ、1913年、ハンガリーのブダペスト生まれのユダ
ヤ人、祖国を追われ、その云うならば全生命を世界の報道の言
葉としても写真芸術に託し、人間的行動をとったといえる。

  1936年のスペイン内乱戦争では人民戦線派の情報部で活躍し
た。その時の写真がアメリカの雑誌ライフに掲載され、一躍、
キャパは世界的に脚光を浴びた。その後、第二次大戦でも活躍、
戦後は第一次インドシナ戦線に地雷に触れて生涯を終えた。

 restricted.jpg
 
 第二次大戦ではハンガリー出身のユダヤ人という微妙な立場
、連合国の敵国のハンガリー出身、敵国人というまさに微妙な
立場のキャパが「コーリアズ」の特派員となり、また転じて「
ライフ」の特派員としてアフリカ戦線、ヨーロッパ戦線、しか
も最前線に兵士とジープに帯同し、落下傘部隊にも参加し、敵
地深くに潜入、戦争の生々しい惨禍を命を賭して次々に写真を
撮り、その日々の鮮烈な記録となっている、

 だがその殺伐とした前線にありながら、キャパの人間味は際
立っている。その語るエピソードも心温まるというべきか、哀
愁に満ちている。輸送船上でアメリカの映画監督、フランク・
キャプラと誤認され、それでそのままキャプラを演じて映画論
を滔々とまくしたてる、などは微苦笑だろう。ロンドンで知り
あったピンキイとの恋愛、死の瞬間の連続を撮ったフィルムの
入ったカバンを抱え、「私は自分を嫌悪し、この職業を憎んだ。
だいたい、この種の写真は葬儀屋の仕事だ。私は葬儀屋にはな
りたくはない」

 ・・・・・・と歎きながらなお葬儀屋の仕事を続けた。そん
な写真から足を洗えなかったのだろうか、と思えてならない。
ほぼ半分はキャパの撮影のイタリア戦線、アフリカ戦線、輸送
船上でのまたパリでの戦争写真だ。スタインベックなどのキャ
パの追想の文章もいい。日本人、翻訳も担当の川添浩史の回想
の文章も心にしみる。

 

この記事へのコメント