R・トレイヴァー『錯乱』1959,東京創元社、殺人事件の弁護の依頼を受けた弁護士の心のあり方、実際の法廷の過程を描く
この作者はRobert Traver,元ミシガン州の地方検事で、その
後、同州の高等裁判所判事、1943念にこの筆名dえTrouble
Shouterをこのペンネームで発表、この作品の原題はAnatomy
ofa Murder だから「ある殺人事件の解剖」である、実際のと
ころ「錯乱」などという邦題より原題をそのままの「ある殺人
事件の解剖」の方がはるかに内容を的確に示している。
ある殺人事件とは、ミシガン州、シューピリア湖の岸の観光
地、レイプと殺人という二つの事件が同じ夜に連続して発生し
た。
その二つの事件とは、同地に駐屯していた砲兵部隊所属の中
尉の妻が、町で観光ホテルとバーを経営の男に湖畔の林の中で
レイプされる、妻の帰宅でそれを知った中尉がピストルを持っ
てバーに行き、スタンドの中にいたその男を射殺、ただちに自
首したというものだ。で主人公は弁護士であるビーグラー、中
尉はビーグラーに事件の弁護を依頼した。
で作品化した、その意図は?だが、このような明白な殺人、
しかも相応の理由がある、ような事件を引き受けた弁護士は、
いったいどういう気持で仕事をこなすのか、というものだった
のではないか。
作者はこう書いている。
「殺人事件に関わった弁護士は、云うならば新しい恋に落ちた
ような男(あるいは女)のようなものだ。もう全面的にのめり込ん
しまう。もう考えること、花すこと、夢見ること、すべてがいと
おしくなる、忌まわしい事件をである」
では被告を弁護して無罪を勝ち取るために弁護士は何をする?
日本なら心神喪失で不起訴、心神耗弱で軽い刑罰を狙うだろうが、
アメリカの弁護士はどうか、作者はビーグラーの活動を追いなが
ら、それを説明していく。検察側の証拠と論理に対抗するために
何をすべきか?弁護士はレイプと殺人ということ以外に、殺され
た男の背景も調べねばならない。それを調べるうちに、被告も知
らなかったような、複雑な事情が明らかにされる。
その複雑な事情が別に被告の立場を有利にするとも限らない。
逆のケースも多い。弁護士はそのような脇道の問題も裏で処理し
て被告の立場を有利にしなければならない。またレイプという微
妙な問題を法廷で争うには、被告に有利な証人を集めねばならな
い。その際には証人とも取引をしなければならない。
法廷期日という締切日を前にして弁護士がどんんば思いで、弁
護のための資料を集め、法廷で展開する刑事法理論の基礎となる
法律や、その解釈を探し出しておかねばならない。その経過が実
に巧みに、述べられているのだ。無味乾燥ではなく、読み物とし
ても悪くはない。暗い白黒映画でなく結構なテクニカラーの映画に
仕上げてもいる。そのため二人の美女を登場させている。被告の中
尉の妻と殺された男の経営のホテルの女支配人である。
最後には一週間にわたる検察と弁護士との論争の過程が詳細に
述べられ、陪審員の表決で中尉は無罪となる。ただその後のさら
なる結末は作品を台無しにしかねないフザけたダジャレめいてい
て、これはいただけない、
アメリカでは陪審制度の存在が日本と大いに異なるが、一つの
殺人事件がいかに法廷で裁かれるのか、その論争、始めから終わ
りまで述べて法学部の学生さん、法科大学院の学生さんにも参考
になる点はあるだろう。
Robert Traver

本名は
John Donaldson Voelker (June 29, 1903 – March 18, 1991),
1959年に映画化された、ジェームス・スチュワート主演、
「ある殺人」

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