『伊勢物語私帖、ー堀辰雄ノート残闕』(角川書店)小谷恒・堀辰雄、堀辰雄の伊勢物語とは?

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 内容の中心は、昭和12、13年頃に小谷恒、堀辰雄の共同作業
で書き綴った「伊勢物語」の現代語訳である。それは大学ノー
ト三冊からなるものであり、そのノートは縦に見開き、上下の
ページに分かれ、上段に訳註、下壇に現代語訳がある。そのノ
ートには万年筆で小谷が現代語訳と訳註、解説を書き、その後
を堀辰雄が赤や緑の鉛筆で訂正加筆している、

 現代語訳の底本には折口信夫が「文章がよく練れていて美し
い」という塗籠本系統のものを使ったという。

 ノートを本にするにあたってノートになるべく近づけた形での
活字本とし、ノートの旧仮名遣いを現代語訳というので現代仮名
遣いに改めている。

 堀辰雄が、折口信夫の弟子であり、室生犀星とも付き合いのあ
った小谷恒の手引で、折口信夫のところに伊勢物語の講義を聞き
に通ったことが、まずこの現代語訳の下地になっていたと思われ
る。

 ちょっと古い、といって昭和39~42年に角川書店から刊行され
た堀辰雄全集にも収録されていない伊勢物語の現代語訳を、堀辰
雄の朱が入ったものを再現する形で本にした、この本はなかなか
の労作である。研究者には資料として貴重だし、それが伊勢物語
の現代語訳で完結しているのは、見事だ。

 堀辰雄の古典ものは、あの「更級日記」、主人公の女性を信濃
に原作から逸脱しての「拉致」が印象に残るが、作品化されてい
ない「伊勢物語」現代語訳は惹かれるものがある。ただ現代語訳
自体は小谷恒による。

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