『薔薇も死を夢見る』レジナルド・ヒル、ダルジール警視もの第5作目、推理は軽いが文学的に見事。バラ好きな人には勧められそう
ダルジール警視もの第5作、トリックはさしたるものでは
ない。推理小説としては、ちょっと、だがトリック以前の、
文学的表現の彩がいい、遺産相続の疑惑をめぐっての人間関
係の記述がいい。それは戸川昌子の『大いなる幻影』のトリ
ックはそれはそれとして、その人間関係の記述が素晴らしい
のと共通点があるような気がした。推理以前に文学的に優れ
ているということだろう。昔ながらの小説があるとしたら、こ
ういう小説だろうと思わせる。どこがどう魅力なのだろうか、
例えば自然描写、風景画というべき表現が多い。翻訳の洗礼を
経ても、その人物の顔立ち、スタイルなどの表現もいいと思う。
人間の微妙な性格、込み入った人間関係、のっぴきならない会
話がある。それらを取り囲むコミュニティ、街にも存在感があ
る。随所にはさまる鋭い批評精神。推理小説のジャンルにただ
加えるのも惜しいというべきか、ただ逆に推理小説してはちょ
っと甘い。
疑惑の人物はパトリック・アルダーマン、彼はヨークシャー
の街で大伯父から大きな家と庭の薔薇園を相続している。現在
の身分は製陶会社の会計係、だがその給料で薔薇園は維持でき
ないと周囲からは思われている。バラ戦争のお国柄で薔薇は特
別の意味をもつようだ。だからもっと上の高給与の地位を狙っ
ている、と疑惑の目で見られる。
その結果、製陶会社の社長がアルダーマンを怪しみ、ダルジ
ール警視らが捜査を開始する。すると、驚くべきことに、ダル
ジールにとってあらゆる面で立ちはだかる者たちは病死や事故
死などで消えているのである。アルダーマンが犯人なのか、だ
が証拠はない。ただ疑惑はどうしても拭えない、限りなくクロ
めいている。
過去の話でも、アルダーマンの妻、典型的な中流英国人だが、
アルダーマンとの結婚を反対した妻の父親も、タイムリーに事
故死しているのだ。
推理小説と思えば他愛もない、枠組みに見えるが、その前提
の文学的記述、構成に魅力がある。妻のダフネがバスコー警部
の妻、エリートやり合う際の、階級の差で生じる言葉つかい、
考え方、感受性の違いでそれが妙に友情を育むところなのだ。
イギリスが階級社会、階層社会であることを感じさせる。入る
喫茶店自体の選択が階級差のせいで違ってしまう。捜査の進展
を夫と語るエリーの言葉とアルダーマンの妻の女同士で語り合
う友情、その階級差の言葉の行き違いも、いかにもイギリスら
しいというべきか。またインド人に見習い警官やその上司、ゲ
イらしい部長刑事との歪んだ感受性の世界も展開で文学として
おもしろい。一章ごとに思わせぶりなエピグラフ、が添えられ
る。「フロリダパンダ系薔薇、無数の小さな薄紫色を帯びたピ
ンク色の花をつける・・・・」やはり薔薇へのこだわりがある。
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